11 欲して止まないもの
ふと、店を出てから俺の後を付いて来る男達がいることに気がついた。
金貨出しまくったからな。マジックバッグも見られたかな?目を付けられたか…
身体強化を自分に掛けて路地裏に走り込み、民家の屋根まで登った。
俺を見失ってキョロキョロする奴が三人。身なりからしてチンピラだ。
お前らそんな暇があるなら働けよ!まったく。
諦めて来た道を戻って行くチンピラ共の姿を確かめてから、屋根伝いにギルドへ戻った。
◆◇◆◇◆◇
そのまま医務室に顔を出す。もう陽が沈む。少し寒くなるから心配だ。
「先生、エレナの様子はどうですか?」
「おお、来たのか。まだ熱が下がらなくてな。点滴二本もぶち込んだから心配いらないぞ」
「目は覚ましましたか?この子人見知りが激しいので、何も答えないかも…」
「このぐらいの子はそんなもんだ。ウチにもこの子と近いのがいるから慣れてるよ、任せなって!」ガハハと笑いながら背中をバンバン叩かれた。
痛いデス、アレン先生……。
「お孫さんがいるんですか?帰らないと寂しがるのでは?」
「孫じゃね〜よ、ワシの息子だよ」ドヤ顔で言われた。
俺は大声を出しそうになったが、手を口に当てて堪えた。「そ、それは失礼しました。そ〜ですかぁ〜…」
今の俺、相当マヌケな顔をしていると思う。
「お前もちゃんと食ってちゃんと休め。やっぱり点滴打って行くか?」ホレホレと手を差し出してきて捕まりそうだったので、「イエイエ、ちゃんと休みますから大丈夫デス…」と、俺は逃げた。
長居をするとヤバそうだ。
エレナの顔を見て部屋に戻ろう。
◆◇◆◇◆◇
医務室の奥に、しばらく寝かせておける部屋があって、エレナはそこにいた。
額に濡れたタオルが乗っていたから、側にあった桶の水で絞ってまた額に乗せた。
息をハァハァと吐いていて、凄く苦しそうだ。
買って来た衣類を棚に置く。
エレナの小さな手を両手で包んで、枕元に座って暫くそのままでいた。
買い物に行って色々買ってきた事、串焼肉に兎と鳥を買った事。男達に後を付けられて撒いた事。たくさん話しかけた。
「早く善くなると良いな。元気になったら美味しい物いっぱい食べよう」エレナの頭をゆっくり撫でて、医務室を後にした。
◆◇◆◇◆◇
ふと考えて、俺は部屋に帰ってもすることが無いし、訓練場で体を動かそう。うん。
移動中の廊下で、着ていたローブはマジックバッグに収めた。
ついでに、誰もいない事を確かめてから魔力を込めて、シガレットケースぐらいの大きさに変えてみたら上手くいった。
(創造神に感謝だなぁ〜)誰もいないけど心の中でお礼を言う。
訓練場に入り、落ちていた木刀を拾い無心で振る。
今は余計な事を考えたく無かった。不安で押し潰されそうだったからだ。
一時間程木刀を振った。身体も息も上がっている。
今日はここまで。食事をして眠ろう。
◆◇◆◇◆◇
翌日からは、俺は起きて食事を取りエレナの顔を見てから森へ行き、薬草を採り体力作りや剣の鍛練。
なるべく人に会わないよう森の中を移動しながら、小さな魔物を斃した。ゴブリンも何匹か襲いかかって来たから、全て薙ぎ払った。
夕方には森を出てギルドに戻り、クズ魔石が貯まったから売り払い、全部で金貨三枚になった。
夜はエレナの顔を見ながら、俺が一日何をしたかを毎日枕元で話してやった。
入院五日目からエレナの意識が戻り、「意識が戻って良かったな」と俺が言うと、目に涙を溜めながらウンウンと聞いていた。
頭を撫でてやりながら「また森に行って色々やってみような。今はとにかく体を休めていろ。時間はあるから大丈夫だ」と慰めた。
エレナが食べられそうなスープを煮込んで、持ってきては食べさせてやったりもした。
あまり量は食べられないけど、少しでも口から取った方がいいと言われ、エレナも頑張って食べたりした。
◆◇◆◇◆◇
そんな毎日を過ごして一週間がたった。約束の商会長を紹介してもらう日だ。
俺は身支度を整えて、ローブを着て部屋を出た。(どうか、見つかりますように)心の中で祈った。
メルダさんの店に行くと、見知らぬ男が店先に立っていた。旦那さんかと思ったら、その人が商会長だった。
「おはようございます。ガスと申します」
「やぁ、おはようさん。トーダです。私に聞きたい事があるんだって?」握手をしながら、挨拶をした。
思っていたより若いな。50歳前後だろうか。細身だなぁ〜。
笑顔で会話をしてくれるから、客慣れしてそうだ。さすが商会長。
メルダさんにお礼を言って、商会長トーダさんの店に移動した。
店にはいろんな穀物が並んでいた。これならエレナが欲しがっている“オコメ”があるかも知れない!
「それで?どんな事なんだい?」
お茶を勧められながら「オコメってご存じですか?娘が食べたがっていて…」と、切り出してみた。
トーダさんの顔は笑っているが、目の奥が
笑っていない。って言うか目の奥がキランと光ったような…。
「オコメですか?どんな見た目で?」
「湿地帯に生育する白いツブツブだそうです…」この人も顎に手を当て考え込んでしまった。
「ふ〜ん?もしかしてアレかな?全く売れないから店には出さないで、自分達で食べているんだけど」そう言って店の奥に行ってしまう。
奥は住居になっているのか。
しばらく待っていると、トーダさんが小さな麻袋を持って戻って来た。「コレかなぁ〜と思ったんだけど、どうかな?」袋を手渡され開けて中を見ると、茶色のツブツブが沢山入っていた。
「コレは?白くありませんが?」
「コレね、旧王都にある『始まりの迷宮』と呼ばれる所で採れる物でね。最初は新種の小麦かと思ったんだけど違ったんだよね」と、トーダさんが少し残念そうに言う。
ツブツブは硬かった。ツブツブだけど。
コレかなぁ?エレナに見せたら分かるかな?
「コレ、頂いても構いませんか?」500gあるかな?金貨一枚を出して渡した。
「こんなに要らないよ?あまり美味しくなかったし。良いのかい?」トーダさんの顔が驚いている。
「はい、試してみたいので頂いて行きます。ありがとうございました」俺は頭を下げて、無理やり金を握らせた。
「ふ〜ん?美味しい食べ方があったら教えてよ。何時でも相談に乗るからさ」またトーダさんの目の奥が光ったよ。コワイコワイ。
それじゃあと手を振り、足早にギルドに戻った。
◆◇◆◇◆◇
帰り道、周りを気にしながら歩いたが、今日はチンピラ共はいないようだ。まだ陽も高いしな。
エレナの所に直行して部屋を覗いたら、丁度起きていた。
「おはよう、具合はどうだ?」俺はなるべく穏やかに話しかけた。
「おはようごじゃいましゅ。だいぶ気分はいいでしゅ」
「そうか、良かったな。まだ無理はするなよ」枕元の椅子に座り、マジックバッグから麻袋を取り出した。
エレナは横になりながら、不思議そうな顔をしている。
「見てごらん」と言って手渡し、袋を開けた。
中は茶色のツブツブ。
「コレって………………………お米だ!!」




