01 俺たちはここから始まった
その日は、久しぶりによく晴れた日だった。
元ガリウレス王国騎士団長ユリウス・ガーナーは、貧民街の片隅で、土の上に横たわっていた。
祖国が戦争に敗れ、みっともなくも一人逃げ出したどり着いた先の隣国、国境の街。
何もかもが嫌になり、有り金は全て通りすがりの教会に投げ入れた。
崩れた家の軒下で、誰にも知られず朽ち果てる………つもりだった。
そんな自分に少しだけ、生きる希望を押し付けるなんて…。“面倒しかない”そう思った。
そして俺たちは、ここから始まったんだ。
◆◇◆◇◆◇
『パンパカパ〜ン!!パパパパンパカパ〜ン!!』
突然、派手な音が俺の頭の中で響き渡った。
もう目覚めることはないだろうと思っていたところに、頭の中で爆音が鳴る。
「うおっ!なんだ?」回りをキョロキョロと見渡しても誰もいない。
『おめでとうございます♡あなたは選ばれました♡』
えっと…何が?お前誰だ?何を言ってる?
俺のことは放っておいてくれ。
『あなたがもたらした善行によって、預けるに相応しいと判断しました♡』
善行って何だ?そんな事した覚えはねーよ。
『これから、あなたに3歳の女の子を預けます♡立派に育てて下さいね♡』
光の渦の中で眠っている女の子が一人。地面から1mの所で浮いていた。
光が収まると、ゆっくり女の子が降りて来る。
「うわぁっ!!」焦って手を伸ばすと、すっぽり腕の中に落ちてきた。
◆◇◆◇◆◇
ハァハァ、焦った…
女の子は物凄く軽かった。よく見るとガリガリに痩せている。髪は伸ばしっぱなしのようで、長さにバラつきがある。頬に肉は無く、唇はひび割れてしまっている。今にも餓死しそうだ。
自分もだけど。
コレを育てろだって?金も無いのに?今から何かで稼いでも餓死しそうなんだけど?
どうして自分に?何かの天罰なのか?逃げたからなのか?皆を見捨てて一人で逃げたから… そうなのか…?
腕に抱く幼子は静かに息をしている。
茫然としながら女の子を見ていると、瞼が開いた。綺麗なスカイブルーの瞳だ。燻んでいるが、髪の色は金なのか…?もしかしたらガリウレスの子供かも。
「あなたは…?」幼子特有の高い声。身体があまり動かないのか、目だけで廻りを探っている。
「俺はユリウス。いきなり育てろと言われ、お前が空中から降りて来た」
「言われ?降りて来た?誰にですか?」
3歳なのに言葉がしっかりしている。自分の置かれた状況が分かるのだろうか。
すごいなこの子。
「誰かは分からない。いきなり俺の頭の中で爆音がして、女の声で言われたんだ。お前を預けるから育てろと」
「ハァー、まったくあの女神ときたら!面倒になったからあなたに丸投げしたのね…… 約束が違うじゃないっ!」と女の子が叫ぶ。
身体の状態からして死にかけのようだが、案外元気なようだ。
ただ、あまり動けないみたいだな。辛うじて頭を動かせるようだ。
「一先ず場所を移動しましょう。ここでは碌な話もできませんし」
ハッと周りを見渡せば、貧民街に住むゴロツキ共がこちらを伺うように覗き見ていた。
ヤツらをひと睨みして、女の子を腕に抱き上げて移動する。
自分にまだ、動く力が残っていることに驚いた。
◆◇◆◇◆◇
小さな手が俺の腕に触れる。
「あなたに少しだけ回復を掛けました。街中に行くぐらいまでは保つでしょう。」
おおー、それは助かる。女の子は腕が動くようになったか。
「何処か風呂付きの宿に行きましょう。服と食べ物も必要ですね。金貨ならありますから、適当な所を選んでもらえますか?」
情報が多過ぎて頭が混乱する。
「えっと…、服買って食料買って風呂付きの宿に行けばいいんだな?」
あーそれから…
「金はどこにある?少し持たせてくれ。それと、回復掛けてくれてありがとう」とりあえず俺は微笑んでおく。
幼子は無表情のまま空間に手を伸ばし、麻袋を引っ張り出した。ジャラジャラと音がするから金貨だろう。
袋を開けて五枚程出してきた。
「これで足りますか?もう少し必要でしょうか?」
物の価値が分からないらしい。良かった、子供らしさがあって。
俺は少しだけ、微笑んでみせた。
「大丈夫だよ。任せろ」
足早に移動して古着屋で二人分の服を買い、露店で食べ物を買った。これでも金貨一枚にも満たないが、今はこれで良い。
◆◇◆◇◆◇
大通りから一本裏道に入る。小綺麗な宿が見えた。
「すまない、部屋は空いているか?」
かなり汚い身なりの大人と子供の姿をジロジロ見て、女将と思われる女が訝しむ。
「はぁ〜。厄介ごとは困るんだけどねぇ〜」
金貨を二枚渡すと、鍵を見せながら「二階一番奥だよ」と、顎で示した。
感じ悪〜い。仕方ないケド。
一先ず二泊する事にして部屋に向かった。さすがに体力が限界だ。
ベッドはセミダブル、机と椅子にシャワーとトイレ付き。こんなもんで充分だ。
女の子をベッドに降ろした。この子、全然笑わないな…。
「そう言えば名前は?まだ聞いていなかったな?」と、俺が聞くと「それは後で。まずはシャワーを浴びて下さい。臭いがキツいです」と女の子に言われてしまった。
うっ、しょうがないだろう?もう何か月も水すら浴びてないんだから… 死ぬつもりだったしな。
心の中で言い訳じみたことを垂れ流しながら、買った服を持って俺はシャワーを浴びに行った。
温かい湯を頭からかぶり、生き返る思いがした。
情けない…
あんなに死を望んでいたのに、生に執着している!
自分の行動のムチャクチャに、嫌気が差した。
◆◇◆◇◆◇
シャワーから出て、俺は新しい服に着替えた。
部屋に戻ると、女の子が口をモゴモゴしていた。
「すいません。先に食事を頂きました。私もシャワーを浴びてきます」
「一人で入れるか?洗ってやろうか?」少々心配になり俺は言ってみた。
女の子に思いっきり睨まれた。そんなに睨まなくても…。スイマセン。
「一人で平気です。食事をして下さい」女の子は着替えを持って、シャワー室に入って行った。
へいへい。自分にも回復掛けたのか?身体が動くようになったんだな。良かったな。
まだ3歳なのにしっかりした子だなぁ〜。
ずっと思っているけど。
とりあえず、話を聞くためにも俺も食事をしよう。
まともな食事なんて何時ぶりだろう…。沢山の後悔で、なかなか喉を通らなかったからなぁ〜。
泥水ばっかり飲んでいたし…
有り難く、食事を頂きますか。




