第6話:街が、答えをくれた
森を抜けると、石畳の道が現れた。
「……道、ちゃんとあるんだ」
ミルフィが、少しだけほっとした声を出す。
街が近い証拠だ。
少なくとも、モンスターだらけの森よりは安全――
そう思いたかった。
(でも、安心できないんだよな……)
レオンは、無意識に周囲を見回していた。
さっきから、胸の奥が落ち着かない。
操作確認は、もうしない。
それは、確認しなくても分かっていることだからだ。
「レオン、警戒しすぎ?」
いろはが、前を歩きながらちらりと振り返る。
巨大な筆を肩に担いだその姿は、
少しずつ“この世界の人”に馴染んできていた。
「いえ……その……」
正直に言う。
「街って、プレイヤー多いじゃないですか」
「うん」
「だから……」
言葉を切る。
嫌な予感を、口に出したくなかった。
ミルフィは、うさぎ
――召喚獣を抱いたまま、楽しそうに周囲を見ている。
「ねえねえ、街ついたら宿かな?
ベッドあるかな?」
「あるといいね」
いろはは、柔らかく答えた。
ほんの一瞬だけ。
本当に、普通のゲームみたいだった。
――その幻想は、街の門前で壊れた。
「だから! ログアウトが! できないんだって!!」
怒鳴り声。
門の前で、数人の冒険者風の男女が揉めている。
「嘘だろ!? バグだろこれ!」
「メニューは開くのに、肝心の項目が消えてるんだ!」
レオンの背中に、冷たいものが走る。
(……やっぱり)
いろはも、足を止めた。
「……他にも、いる」
ミルフィが、小さく呟く。
うさぎが、不安そうに耳を伏せた。
「運営に問い合わせようとしても、送信できない!」
「GMコールも反応なしだ!」
その場にいた全員が、同じ言葉を繰り返している。
――ログアウトできない。
レオンは、胸の奥が静かに沈んでいくのを感じた。
(俺たちだけじゃない。
偶然でも、エラーでもない)
「……確定、ですね」
ぽつりと零れた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
いろはは、何も言わず、街の門を見つめている。
その横顔は、静かだった。
ミルフィが、ローブの袖をきゅっと掴む。
「ねえ……
みんな、帰れないの?」
答えは、もう出ている。
「……今は」
レオンは、そう言った。
街の中からも、ざわめきが広がっている。
不安、怒り、混乱。
それでも、街は動いていた。
NPCらしき人々は、いつも通りに歩き、店を開いている。
「ね」
いろはが、ゆっくり言った。
「騒いでる人もいるけど……
街は、止まってない」
「……はい」
「たぶん」
彼女は、筆を軽く握り直す。
「ここは、生活する場所なんだ」
ミルフィが、こくりと頷いた。
「じゃあ……
わたしたちも、生活しなきゃ、だよね」
レオンは、深く息を吸った。
怖さは、消えない。
胃も、相変わらず痛い。
でも。
(知ってしまった以上、進むしかない)
ログアウト不可。
それは、もう疑いようがない。
街は、答えをくれた。
――ここが、現実だと。




