第4話:召喚獣と、へたれの勇気
影から跳ね上がるようにして、巨大な牙を持つ影狼が飛び出してくる。
「っ、いろはさん!」
レオンは反射的に、いろはの腕を掴んで引き寄せた。
地面を転がるようにして、影狼の突進をかわす。
心臓が喉までせり上がる。
「レオン……!」
「へ、へたれですけど! さすがに黙って見てられないです!」
声は震えている。
それでも、手は離さなかった。
影狼は方向転換し、今度はミルフィを狙う。
「ミルフィちゃん、後ろ!」
「ひっ……!」
うさぎの召喚獣が、ぴくりと耳を動かした。
次の瞬間。
ふわふわだった体が、信じられない速さで跳ぶ。
――ドンッ!!
小さな体からは想像できない衝撃音。
影狼が、横から叩き飛ばされた。
「……え?」
全員が固まる。
うさぎは着地すると、
何事もなかったように首を傾げた。
「い、いまの……」
「……たぶん、当たり判定ありますね……」
レオンが、必死に冷静さを装って言う。
「ミルフィちゃん! その子、前に出せるかも!」
「ほ、ほんと!?」
ミルフィが召喚獣を見ると、
うさぎは元気よく「きゅっ」と鳴いた。
影狼が、再び動く。
「いろはさん! 今です! 距離取って!」
レオンは盾代わりになる気など、さらさらない。
だが、動線を読むことだけは得意だった。
敵の進路、地形、仲間の位置。
頭の中で必死に組み立てる。
「右から来ます! 次は――跳ぶ!」
「了解」
いろはは、大筆を握り直した。
「えーと……」
一瞬だけ、困ったように首を傾げる。
「……こう、かな?」
地面に、さっと線を引く。
迷いはないけれど、真剣すぎない線。
まるで、ノートの端に描く落書きみたいに。
筆先から零れた絵具が、ふっと光った。
「あ」
次の瞬間、
線が、もぞっと動いた。
「……動いた?」
黒い塊が形を持ち、
歪で、どこか間の抜けた獣になる。
「ちょ、ちょっと待って、そんなつもりじゃ――」
その“描いたもの”が、
勢いよく影狼に突っ込んだ。
――がぶっ。
噛みつかれた影狼が、短い悲鳴を上げて倒れる。
静寂。
「…………」
誰も、すぐに言葉を出せなかった。
いろはは、筆を見下ろし、
次に倒れた影狼を見て、ぽつりと呟く。
「……やっちゃいました?」
レオンは、その場にへたり込んだ。
「……生きてる……」
手が、まだ震えている。
「レオン、ありがとう」
いろはの声に、彼は顔を上げた。
「正直、めちゃくちゃ怖かったです。でも……」
一瞬、視線を逸らしてから、照れたように言う。
「パーティー、ですから」
ミルフィが、うさぎを抱き上げて頷いた。
「うん。三人で、だね」
いろはは、大筆を肩に担ぎ、
少し困ったように、でも楽しそうに笑った。
――こうして、
へたれイケメンと、
召喚士と、
ちょっと危ない落書きをする画家のパーティーは、
本当の意味で動き出した。




