第1話 ログアウトできません。あと、私、画家です。
※VRMMO世界が舞台ですが、転生ものではありません。
※ゆっくり最強化していきます。
「……あれ?」
視界いっぱいに広がるのは
見慣れたはずのログイン画面ではなかった。
青空。石畳。風に揺れる旗。
どこからどう見ても、ゲームの中
――それも、やり込み済みのVRMMO《Eternal Palette Online》の初期街だ。
「おかしいな。アップデート終わったらログアウトする予定だったのに……」
私は首を傾げながら、自分の手を見る。
ちゃんと五本指。質感も、温度も、やけにリアルだ。
──フルダイブだから、当たり前なんだけど。
問題はそこじゃない。
視界の端にあるはずのログアウトボタンが、どこにも見当たらなかった。
「……まあ、バグかな」
そう呟いて、私は肩に担いだ“それ”を見下ろす。
巨大な筆。
長さは私の身長よりも少し大きくて、穂先は星屑みたいにきらきらしている。
イベントでもらった、見た目全振りのネタ装備。
──画家用。
そう。
私、戦闘職じゃない。
ステータスウィンドウを開く。
名前:綾瀬いろは
職業:画家(Painter)
戦闘力:ほぼゼロ
「うん、知ってた」
このゲームで画家は完全に趣味職だ。
モンスターも倒せないし、パーティーにも歓迎されない。
できることと言えば、風景や肖像画を描いて、NPCに売るくらい。
なのに
「ログアウトできない世界で、それはきついなぁ……」
ため息をついた、そのとき。
「いろはさん! 後ろ!!」
聞き覚えのある、少し裏返った男の声。
振り向くと、石畳の向こうから、牙をむいたウルフ型モンスターが突進してきていた。
「え、ちょ、待っ──」
逃げようとして、足がもつれる。
転びそうになって、反射的に巨大な筆を振り回した。
ばさっ。
ただそれだけ。
描こうとも、戦おうとも思っていない。
怖くて、無我夢中で、筆を振っただけ。
なのに。
空中に、光る線が走った。
次の瞬間。
ドンッ、という衝撃音とともに、ウルフは――消えていた。
跡形もなく。
まるで、世界から消しゴムで消されたみたいに。
「………………」
沈黙。
「………………え?」
私の声と同時に、後ろにいたイケメン剣士――レオンが、震える声で言った。
「い、いまの……一撃、でしたよね?」
私は巨大な筆を見下ろし、首を傾げる。
「……演出、派手になったのかな?」
その場にいた全員が、同じ顔をしていた。
画家が、モンスターを一撃で倒した。
そんなはず、あるわけがない。
――こうして私は、
自覚ゼロのまま、最強への一歩を踏み出したのだった。




