これが僕の……
奏さんが旅立ったのは、暑さがまだ残る秋の朝だった。
成田空港のロビーで、僕は最後まで手を振り続けた。
「行ってらっしゃい!」
「ちゃんと星、見てろよ!」
彼女の笑顔が、最後に見た表情だった。
その後、僕はひとりで研究を続けた。
夜、ふとした瞬間にスマホを開いて、海外の星の観測データを読み込む。いつか、彼女のいる場所で、肩を並べて星を見られるように。
冬、初めての学生発表会で僕は壇上に立った。
震える声で語った。
「——星は、距離では測れません。その揺らぎには、記憶があり、時間があり、そして命があります」
スライドが最後の一枚を映し出したとき、拍手が会場に満ちた。
その中に、どこか懐かしい手が、しっかりと拍手を送ってくれていた気がした。
春、僕はまた空を見上げる。
そこに星はなかった。でも、もう探さなかった。
星は、僕の中にある。ずっとあの日から、灯り続けていた。
問い続ける限り、夢は続いていく。
遠く、誰かの空の下で、今も彼女は観測をしているのだろう。
——そう思えることが、なにより僕を支えていた。
そしてきっと、いつかまた同じ空の下で——
僕は、あの人に再会する。
そのとき、自信を持って言えるだろう。
「僕は、星の続きを見てきました」
終わり




