受かった
合格発表の日。掲示板の前。
僕は、無言で番号を探した。指が止まった瞬間、胸が詰まり、思わず一歩後ろに下がった。
(あった……!)
「……受かった……!」
喉から漏れた小さな声は、自分でも気づかないほど震えていた。眩しすぎるほどの冬の陽射しが、掲示板のガラスをきらきらと反射させている。
僕はそのままベンチに腰を下ろし、スマホを手に取った。
家族に連絡を入れようとした手が、一瞬止まる。
まず最初に伝えたくなったのは、あの人だった。
「受かりました」
送信ボタンを押してすぐ、心臓の鼓動が早くなる。
数分後、画面に返信が届く。
「ようこそ、こちら側へ」
その言葉を見た瞬間、涙が溢れた。
音もなく、ただ静かに、ぽろぽろと頬を伝っていく。
(やっと、ここまで来た……)
小さなきっかけだった。冬の夜に見た星の光。春に手を引かれるように訪れた研究室。流星群の夜、そっと胸に灯った「憧れ」。
それら全部が、少しずつ僕をここまで運んでくれた。
今になってようやく気づく。
——夢っていうのは、自分ひとりで見るものじゃなかった。
誰かに見せてもらって、誰かに支えてもらって、そしてようやく、自分のものになる。
僕はスマホをポケットにしまい、立ち上がって、空を見上げた。
冬の空は、まだ白く曇っていた。星の姿はどこにも見えない。
けれど、なぜかその奥に、確かな光がある気がした。
(まだ、始まったばかりだ)
進学はゴールじゃない。ただのスタートライン。
この先には、もっと深く、もっと遠くの世界が待っている。
怖い。でも、見たい。
いつか、本当に「星の声を聴ける日」が来たなら——
そのとき、誰かの心に、新しい光を灯すことができたら。
そんなことを、ぼんやりと思った。
ポケットに入れていた夢日記のページを、そっと開く。
「星を見る人になりたい」
その言葉の横に、僕は新しく書き足した。
「そして、誰かの夢に、光を届けられる人になりたい」
小さな文字だったけど、それは今の僕にとって、世界で一番大切な言葉だった。
深く息を吸って、空を見上げる。
そこに星はなかった。
でも、空は広くて、果てしなくて、まるで僕の未来のようだった。
——夢はまだ、ここにある。




