全力
秋の初め。
父と、ぶつかった。
「宇宙だとか、そんな夢みたいなことで、本当に将来やっていけるのか?」
「やっていけるかどうかなんて、わからないよ。でも、やりたいことを諦めて、平気な顔して生きていけるほど、器用じゃない」
父はしばらく黙っていた。
「……人生、後戻りできないぞ」
「それでも、やってみたいんだ。僕は、自分で選びたい」
言葉が震えなかった。それが、唯一の誇りだった。
その夜、父は何も言わずにリビングのテレビを消して、出された夕飯をそっと温め直してくれた。
それが、父なりの“理解”だったのだと、あとになって気づく。
冬の朝。願書を書いた。
ペンを持つ手が震えていた。書き出しの一文に、何度も迷った。でも、ようやく決めた言葉は、まっすぐだった。
「僕は、星を研究したい。夜空にある“光”が、僕にとっての進む道を照らしてくれた。だからこそ、その光の本当の意味を知りたい。そこに、僕自身の存在の根拠があるような気がするからだ」
最後まで書き終えたあと、そっと目を閉じた。
自分で自分に、よくやったと伝えたかった。
母がドアをノックもせずに入ってきて、静かに僕の横に座った。
「……書けたの?」
僕は黙って、頷いた。
母は笑って、僕の頭をくしゃりと撫でた。
「なら、あとはやるだけだね」
その手が、あたたかかった。
受験当日。
雪がちらつく朝。電車の窓ガラスが白く曇っていた。駅に着くと、受験生たちがみんな、同じように沈黙の中にいた。
校門の前で、スマホに一通の通知。
「空を見ろ。お前が目指したものは、そこにある」
——奏さんからだった。
僕は空を見上げた。
曇っていて、星どころか太陽すら霞んでいた。
でも、それでも。
(星は、そこにある)
そう信じられる何かが、胸の中に確かにあった。
試験会場に入るとき、背筋がすっと伸びた。ペンを持つ手は、震えなかった。
問題文の中の数式が、どこかで見た空のように思えた。
時間の感覚も、周囲の雑音もすべてが消えていた。ただ、問題と自分だけ。
「……全部、出し切れた」
試験が終わったとき、初めてそう言えた。




