ココアと吐いた苦い思い
――少し、寒くなってきたな。
吐く息の白さが濃くなるたび、体の芯まで冷え込んでいく。
歩き続けていた足が止まり、星がよく見える高台にある公園に着いていた。
古いベンチに腰を下ろしていると、ふと視界の端に赤く光る自販機が映った。
まるで灯台のように、夜の闇の中で一つだけ確かな場所を示しているようだった。
小銭をポケットから探る。指先はかじかんでいて、百円玉と十円玉の区別すら曖昧になる。
「……これで足りるか」
独り言を呟きながら、ココアのボタンを押す。
ガコン、と缶が落ちる音が夜に響く。
取り出し口に手を差し入れると、温かい缶が指を包んだ。
「……あったかい」
思わず、小さく笑った。
ココアなんて、もう何年も飲んでいなかった。甘すぎるから嫌いだと、そう思っていたのに。
缶の蓋を開けると、甘い香りが鼻をくすぐる。
少しだけ口に含むと、その甘さが舌に広がり、胸の奥を静かに溶かしていくようだった。
(……今の僕には、これくらい甘いほうがちょうどいいのかもしれない)
夜の空気は相変わらず冷たく、指先がじんわりと痛い。でも、その痛みすら、今はどこか愛おしかった。
僕は、ココアを両手で包みながら空を見ていた。
(進路……決めなきゃいけないんだよな)
文系か理系か。
あと少しで訪れる冬休みの間に決めろ、と親に言われていた。
簡単なはずだった。昔なら、理系を即答していた。
だけど、今の僕は夢を捨てかけている。
子供の頃のように無邪気に「宇宙に行きたい」「星を見たい」と言えない自分が、情けなくて仕方なかった。
(……星のこと、あんなに好きだったのに)
それでも僕は、ゆっくりと夜空を仰ぐ。
無数の星たちが、そこにある。
どの星も、自分の光を淡々と放ち続けている。
(僕は、何をしているんだろう……)
まるで、自分だけが時間の中に取り残されているような感覚があった。
いつの間にか冷たい空気に、手が痛むほど冷えている。
ポケットから出したココアの空き缶は、もうぬるくなっていた。
(……寒い)
小さく声を出すと、涙が喉の奥に溜まる感覚がした。
どうしようもない孤独感が、胸を締め付ける。
親に言わないといけない「文系に進む」という言葉が、喉に引っかかって離れない。
(言えば、全部終わる。現実的な未来が決まる。なのに、どうしても言えない……)
目の前の景色が滲む。
知らずに手が震えているのを見て、ようやく自分が泣いていることに気づいた。
「……やっぱり、僕は……」
ふと、空を見上げると、半月が雲間から顔を覗かせていた。
星は、少ない。それでも、確かに瞬いている。
「……まだ、消えてないんだな」
缶を持つ手が震えた。
声に出してしまうと、胸の奥に積もったものが全部溢れそうで、怖かった。
「そろそろ…… 帰るか……」
僕が重い重い腰を上げて帰ろうとしたそのとき、後ろから小さく砂利を踏む音が聞こえた。
振り返ると、薄暗い公園の入口に人影があった。




