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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
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集中しないと

 観測以降、僕の毎日は少しずつ変わり始めていた。


 物理の授業で出てきた「ドップラー効果」や「スペクトル」という単語に、以前よりも敏感に反応してしまう。教科書の中に、あの夜空の光が紛れ込んでいるような気がして、思わず授業中に星空を思い出すこともあった。


 帰り道の商店街の本屋で、ふと手に取ったのは『宇宙観測の最前線』という専門書だった。難しい数式は飛ばしながらも、ページをめくる手が止まらなかった。


 ある日曜日、近所の図書館の学習スペースでその本を読みふけっていたとき、ふと視界の端に見慣れた背中があった。


 「……奏さん?」


 顔を上げると、やっぱりそうだった。彼女は私服で、ノートパソコンを広げて何やら論文らしきものを読んでいる。


 「お、奇遇だな」

 「えっ、なんでここに?」

 「ここのWi-Fiが速いんだよ、実は」


 思わず笑ってしまった。


 「何読んでた?」

 「えっと……分光観測の入門書です」

 「お、いいじゃないか。今度それ、使ってクイズ出すから覚悟しとけ」


 その日、図書館の自習室で少しだけ話した。学外で会うと、研究者というより、ひとりの年上の知人のように見えて、どこか距離が縮まった気がした。


 僕は、こうして少しずつ、“自分の目指す場所”と、日常の中で繋がっていく感覚を覚えていた。


 星と進路。遠くの光と、足元の地図。その両方が、ようやく一本の道としてつながりはじめた気がした。


 夏休みが近づくにつれ、学校では補講や模試の予定が貼り出され、空気がいっそう緊張感を帯びてきた。僕はというと、教室と図書室を往復しながら、必要最低限の勉強をこなしていた。


 けれどその合間にも、夜になるとつい空を見上げてしまう自分がいた。ふと気づけば、部屋の本棚には星や宇宙に関する本が何冊も増えていた。


 天文部の古いノートを引っ張り出し、自分の手で星図を描いてみる。市販のアプリでは分からない星座の配置や、夜空の移ろい。そのひとつひとつを自分の感覚で追いかけていく時間が、いつしか大切な「儀式」になっていた。


 週末、奏さんから連絡が来た。


 「今度、研究室主催で高校生向けの観望会やるんだが、少年は来れそうか?」

 僕はすぐに「ぜひ行きたいです」と返した。

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