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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
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再決断

 放課後、帰りのホームルームが終わっても、僕はまだ教室に残っていた。みんながぞろぞろと教室を出ていく中、一人でノートを広げ、白紙のページを眺めていた。

 

 (あの人たちは、いま、どんなふうに夢を追っているんだろう)

 

 大学の研究室で見た、星と数式の世界。あの部屋の空気は、静かだけど、どこか熱を帯びていた。誰かの「やりたい」が、そこに確かに存在していた。

 僕も、そこにたどり着けるだろうか。焦りではなく、ただ純粋に、そう思った。

 

 シャープペンを取り出し、ノートのページにそっと書き込む。

 今はまだ、なにもわからない。でも、知りたい。星を、宇宙を、自分の心の中を。

 

 その文字はたどたどしく、でも、どこか揺るぎなかった。

 

 ふと、机の奥から古いノートを取り出す。中学時代につけていた夢日記だった。


 「宇宙飛行士になりたい」「月を見てると落ち着く」「星座の名前を全部覚えたい」──幼い言葉が、ページに残っていた。

 

 思わず笑ってしまった。でも、その笑いは馬鹿にするものじゃなかった。あの頃の自分が確かにいた。それは、今の僕にもつながっている。

 

 (思い出した。僕、あのときから星が好きだったんだ)

 もう一度ノートを見下ろし、僕は小さく呟いた。

 「……ここからだ」

 

 まだ何も形にはなっていない。でも、心の奥に確かに灯った火種が、そっと揺れているのを感じた。強くはないけれど、消えそうにもなかった。

 

 ふと、カバンの中にあった進路希望調査の紙を取り出した。記入欄は真っ白なまま。ペン先を乗せて、しばらく迷って──一行目に、震える手で書いた。

 《第一希望:理学部 宇宙物理学科》

 書いた文字を見つめると、なぜか涙がこぼれそうになった。

 

 (やっと、最初の一歩を踏み出せた)

 それは、ようやく自分に向き合えた証でもあった。

 

 まだ何も持っていない。けれど、何かを見つけたい。そう思えたことが、今はただ、うれしかった。

 夜が静かに降りてきて、窓の外にはいくつかの星が瞬いていた。


 あの光がどこから来て、どんな道を通ってきたのか──その答えを、いつか自分の手で確かめてみたいと思った。


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