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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
33/47

最後の

 帰り道、公園に寄った。

 夜空は今日も澄み渡り、冷たい星がきらめいていた。


 「来たな、少年!」


 いつものように、奏さんが白衣姿で望遠鏡を覗いていた。

 その声を聞くと、全身の力が抜け、深い安堵感に包まれる。


 「奏さん、先生に言われました。成績もギリギリで、難しいって」


 「ほう、それでどうする?」


 「やります。……どんなに大変でも」


 奏さんは、まぶしそうに僕を見て笑った。


 「うん、それだよ。それが『選ぶ』ってことだ」


 「……僕、きっとまだ何度も迷います。泣くかもしれないし、逃げ出したくなるかもしれない」


 「それでいいさ。逃げ出しても、また戻ってくればいい。夜空はずっとここにある。私もな」


 夜風が吹き抜け、奏さんの白衣が軽く揺れる。

 その姿は、まるで一人の星のように輝いて見えた。


 「奏さん、僕……絶対、あの星に手を伸ばします。届かなくても、届くまで追いかけます」


 「いい決意だ、少年」


 奏さんは望遠鏡を僕に渡した。


 「ほら、覗いてみろ。今日の空は、特にいいぞ」


 望遠鏡を覗き込むと、冬の星座たちが目の前に迫ってきた。

 遠くにあるはずの光が、手を伸ばせば掴めそうなほど近く感じる。


 (あの光は、過去の僕。これからの僕。そして、未来の僕)


 僕は小さく息を飲み、空へと手を伸ばした。


 (これから先、どんなに怖くても、何度でもここに来て、星を見て、自分を取り戻す)


 「よし、決まりだな」


 奏さんが後ろで嬉しそうに笑う。


 「これからが、本当の旅だ。泣いて、笑って、走って、倒れて、それでも進む。君の人生は、もう君のものだ」


 夜空を見上げながら、深く深呼吸をした。


 (進もう。星に誓う。この命のすべてを懸けて)


 指先が少し震える。

 けれど、その震えは恐怖ではなく、確かな希望の震えだった。


 公園を後にして歩き出すと、背中に星の光がそっと触れるような感覚があった。


 (ありがとう、奏さん。ありがとう、父さん。そして……あのときの僕)


 歩みは遅くてもいい。

 迷っても、倒れてもいい。

 それでも、僕は進む。


 (これが、僕の選んだ道。僕の生きる証――)


 冬の夜空は変わらず、冷たく、そして美しかった。

 そこに輝く小さな光は、きっと僕の中にも灯っている。



第一部終了!


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