キリキリ
朝のホームルーム、先生が黒板に大きな文字で「進路説明会」の日程を書き出した。
「いよいよ、具体的に志望校を決める時期だぞ。模試の結果やオープンキャンパスの情報を参考にして、それぞれの夢を形にしていくんだ」
クラスの空気がピリッと張り詰める。
少し前まで、進路という言葉はどこか遠い未来のことのように思っていた。
でも、もう言い逃れはできない。
(夢を選んだ以上、これからは自分で動かなくちゃいけないんだ)
授業中、ノートの隅に小さな星を何度も描いていた。
その星は、どの線もまだいびつで不格好だけれど、なぜか愛おしかった。
(星は、僕にとってただの象徴じゃない。僕自身の意思だ)
放課後、進路指導室に呼ばれた。
ドアを開けると、担任の先生が静かに微笑んでいた。
「お、白木。座れ」
「はい」
机の上に置かれた模試の結果と進路資料が、こちらを睨んでいるように見えた。
「君、理系に決めたんだな。宇宙物理系……簡単じゃないぞ」
「……分かってます」
「それでもやるか?」
「はい。やります」
少しの沈黙が流れる。
そのあと、先生は目を細め、苦笑交じりに言った。
「強いな、お前は。まぁ、その分大変だ。成績もギリギリだし、ここからは人の何倍も努力が必要だ。覚悟しておけよ」
「はい。……全部、覚悟の上です」
声に力を込めた瞬間、胸の奥が熱くなった。
(これが、僕の「選んだ道」なんだ)
教室に戻ると、田中が机に突っ伏していた。
「お前さぁ、進路指導室で説教されてたんだろ?」
「……まぁ、説教っていうか、激励っていうか」
田中が顔を上げる。
目の奥に、不安と羨望が混じったような色があった。
「お前さ、本当に変わったな。前はもっとフワフワしてたのにさ。今、めっちゃまぶしいわ」
「……そんなことないよ。怖いし、不安もいっぱいだし」
「でも、それでも前に行くんだろ? すげぇよ、お前」
僕は小さく笑った。
「田中も、ちゃんと考えてるじゃん。大丈夫だよ、絶対に」
田中は照れ臭そうに笑いながら、拳を突き出した。
「まぁ、お前がそこまで言うなら、俺もちゃんと決めるよ。文系にする!」
「お、決断したじゃん!」
拳をコツンと合わせたその音が、冬の夕暮れの教室に小さく響いた。




