頼むぞ
「やぁ、少年!」
聞き慣れた声が響く。
奏さんが相変わらず白衣姿で、望遠鏡を抱えていた。
「……奏さん、会えてよかった」
僕は思わず駆け寄った。
胸にたまった言葉を、どうしても届けたかった。
「最近、すごく怖いんです。夢に近づくほど、怖さが増して……何を信じていいかわからなくなる。周りも揺れてるし、自分も揺れる。でも……でも、諦めたくないんです」
奏さんは微笑み、夜空を見上げた。
「夢はな、光と影の両方を抱えるものだ。進むほどに影が濃くなる。だが、その影は光が強い証拠でもある」
「……影が強いほど、光も強い?」
「そうだ。だからこそ、君が震えるのは正しいんだよ」
その言葉に、胸の奥が温かく震えた。
僕は夜空を見上げる。
小さな星が点々と瞬いていた。
それは、決して近くない。むしろ遠く、届きそうにないほどの場所で光っている。
(でも、あの光は、僕にとって確かな道しるべだ)
「僕は……怖くても進みたいです。ずっと怖がっていた自分に、もう負けたくない」
奏さんは大きく頷き、笑みを深めた。
「いい顔だ、少年。震えてもいい、泣いてもいい。でも、その足だけは止めるな」
「……はい」
空を見上げながら、大きく深呼吸をした。
冬の空気は刺すように冷たかったが、その冷たさがむしろ心を研ぎ澄ませるようだった。
(父さんと話して、仲間と笑って、そしてまた、こうして星を見上げる。この繰り返しの中で、僕は確かに前に進んでる)
公園を出るとき、奏さんが小さく呟いた。
「君が未来で、どんな景色を見るのか楽しみだよ。私の望遠鏡じゃ、その未来までは見えないからな」
「……僕が、ちゃんと見せます」
「おう、頼むぞ!」
笑顔で別れたあと、家へ向かう道を歩きながら、胸の奥にずっとあった迷いが少しずつほどけていくのを感じた。
(これからもきっと、迷う。転ぶ。泣く。……それでも歩く。それが僕の生き方だ)
星の光が微かに背中を押す。
その感触が、僕に「確かな一歩」を刻んでくれる。
(よし、進もう。僕の星を、僕の未来を、信じて)




