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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
31/47

頼むぞ

「やぁ、少年!」


 聞き慣れた声が響く。

 奏さんが相変わらず白衣姿で、望遠鏡を抱えていた。


 「……奏さん、会えてよかった」


 僕は思わず駆け寄った。

 胸にたまった言葉を、どうしても届けたかった。


 「最近、すごく怖いんです。夢に近づくほど、怖さが増して……何を信じていいかわからなくなる。周りも揺れてるし、自分も揺れる。でも……でも、諦めたくないんです」


 奏さんは微笑み、夜空を見上げた。


 「夢はな、光と影の両方を抱えるものだ。進むほどに影が濃くなる。だが、その影は光が強い証拠でもある」


 「……影が強いほど、光も強い?」


 「そうだ。だからこそ、君が震えるのは正しいんだよ」


 その言葉に、胸の奥が温かく震えた。

 僕は夜空を見上げる。


 小さな星が点々と瞬いていた。

 それは、決して近くない。むしろ遠く、届きそうにないほどの場所で光っている。


 (でも、あの光は、僕にとって確かな道しるべだ)


 「僕は……怖くても進みたいです。ずっと怖がっていた自分に、もう負けたくない」


 奏さんは大きく頷き、笑みを深めた。


 「いい顔だ、少年。震えてもいい、泣いてもいい。でも、その足だけは止めるな」


 「……はい」


 空を見上げながら、大きく深呼吸をした。

 冬の空気は刺すように冷たかったが、その冷たさがむしろ心を研ぎ澄ませるようだった。


 (父さんと話して、仲間と笑って、そしてまた、こうして星を見上げる。この繰り返しの中で、僕は確かに前に進んでる)


 公園を出るとき、奏さんが小さく呟いた。


 「君が未来で、どんな景色を見るのか楽しみだよ。私の望遠鏡じゃ、その未来までは見えないからな」


 「……僕が、ちゃんと見せます」


 「おう、頼むぞ!」


 笑顔で別れたあと、家へ向かう道を歩きながら、胸の奥にずっとあった迷いが少しずつほどけていくのを感じた。


 (これからもきっと、迷う。転ぶ。泣く。……それでも歩く。それが僕の生き方だ)


 星の光が微かに背中を押す。

 その感触が、僕に「確かな一歩」を刻んでくれる。


 (よし、進もう。僕の星を、僕の未来を、信じて)




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