進路
進路を決め、父と向き合い、自分の「傷」を受け入れてから数日が経った。
学校の廊下を歩いていると、進路票の話はすっかり終わったかのように、日常の話題があふれている。
それでも、心の奥ではまだ不安が小さく蠢いていた。
(これで本当に良かったのかな……)
朝のホームルーム中、担任の先生が進路関連の資料を配りながら言った。
「ここからは、模試や説明会、オープンキャンパスなど、自分の選んだ道をより具体的に考えていく期間だ。悩むこともあるだろうが、それが当たり前だからな」
生徒たちがざわめく中、僕は配られた資料に目を落とす。
大学の名前、偏差値、合格率……そこには数値化された「現実」が冷たく並んでいた。
(現実って、こんなにも無機質で、こんなにも重たいんだな……)
ふと、となりの席の田中が小声で言った。
「おい真冬……やっぱさ、文系にすっかな、俺」
「……そっか」
「いや、理系も面白そうだし、でも文系のほうが楽そうだし……もうわかんねーわ」
田中の言葉は、笑いながらもどこか切実だった。
自分だけじゃない、みんな悩んでいる。その当たり前の事実が、ほんの少しだけ僕を支えてくれた。
昼休み、廊下の窓から外を眺める。
冬の空は青く高く、見上げるほどに冷たい空気が頬に刺さった。
(この空の向こうに、僕の行きたい場所がある。……それでも、まだ怖い)
怖さを抱えたまま、放課後を迎えた。
帰り道、夕陽に染まったアスファルトを踏みしめながら、僕はふと足を止める。
(あの夜、星を見て決めたんだよな。あのときの気持ち、まだ胸にあるか?)
ポケットに手を入れると、進路票の控えのコピーが指先に触れる。
(何度でも、思い出せ。……迷ったら、空を見上げろ)
そのまま公園へ向かった。
冬の夜は冷たく、吐く息は白い。




