航路
そんな心を示すかのように僕は口を閉じてしまっていた。
そんな僕に奏さんは優しく言葉を紡ぐ。
「そうだな。君の一番の敵は、君自身だ。夢を殺すのも、夢を生かすのも、自分だけだよ」
「でも……僕は、あの頃の自分に恥じないように生きたいです。怖いけど、絶対に逃げたくないんです」
夜空を見上げると、無数の星が瞬いていた。
その一つひとつが、まるで過去の自分が残した希望の粒のように思えた。
「少年、君の心にある『傷』は消えない。消す必要もない。それは、これまで戦ってきた証拠だからな」
奏さんの言葉が、胸に優しく沈んでいく。
気づけば、僕は泣きながら笑っていた。
「僕……ずっと走り続けます。何度でも、怖くなっても、立ち止まっても、また星を見上げて……進みます」
「それでいい。それが夢を生きるということだ」
冬の星座たちが、一層強く瞬いていた。
その光は、僕の中の消えない傷を、確かに温めてくれている気がした。
(夢は、怖くて、痛くて、それでも優しい。僕は、それを抱えて生きる――)
深呼吸をして、夜空を見上げる。
小さな星の光が、遠い未来のように揺れていた。
(これからも、僕は星と一緒に、生きていく)
公園の静寂の中、夜風が優しく吹き抜けた。
僕は、再び歩き始める決意を胸に、星を見つめ続けた。
。
「少年、未来は船出だ。進むか止まるか、それを決めるのは君自身だ。だが、一つ約束しよう」
「……約束?」
「これから何があっても、私は君の夢を笑わない。君が立ち止まったとき、また星を見においで」
その言葉に、涙が込み上げる。
「……はい。必ず、見に来ます」
奏さんが差し出した手を、僕はしっかりと握りしめた。
夜空に広がる無数の星たちが、まるで未来への小さな灯台のように瞬いていた。
その光は、誰かが決めた道ではなく、僕自身が選んだ新しい航路を示している気がした。
(怖いけど、大丈夫だ。これから何度でも立ち上がれる)
胸に、そう強く刻む。
未来への船出は、今、ここから始まる。
静かな夜空の下で、小さな一歩を踏み出した僕の中に、確かな光が生まれていた。




