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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
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僕の足跡

 父と向き合った夜から、心の中に奇妙な静けさが生まれた。

 それは、全てが解決したわけではなく、むしろこれからの不安がより鮮明になったからこその静けさだった。


 翌朝、カーテンを開けると、空は雲一つない冬の青さに染まっていた。

 まぶしさに目を細めながら、僕は思った。


 (これから、もっと難しい日々が来るんだろうな……)


 父に言葉を届けたことで、一歩進んだ。

 でも、夢を選ぶということは、その先にある現実と戦い続けることを意味している。


 学校では、クラスメイトが進路票についてまだざわざわと話していた。

 その声が、まるで昨日までの自分を見ているようで、胸が少しだけ痛んだ。


 「真冬、お前さ、本当に理系行くの?」


 田中が、少し不安そうに声をかけてきた。


 「うん、行くよ」


 「そっか……なんか、お前すげーな。俺なんかまだフラフラしてるのにさ」


 「……俺も、ずっとフラフラしてたよ」


 「でも、決めたじゃん。父親に話したんだろ? なんかさ、お前だけどんどん先に行くみたいで、寂しいよな」


 田中の言葉は冗談めいていたけれど、その奥には本音が滲んでいた。

 僕は小さく笑った。


 「……一緒にいこうよ。たとえ選ぶ道が違っても、進むのは一緒だろ?」


 「……あーもう、そういうクサいこと言うのやめろよな!」


 田中は顔を赤くして笑い飛ばした。

 その笑顔が、冬の空みたいに澄んで見えた。


 放課後、ふと教室に一人残り、机に突っ伏す。

 窓の外には薄く朱に染まった夕空が広がっていた。


 (あのとき、星を見つめる自分が大好きだった。なのに、どうして夢から離れようとしたんだろう)


自分の心に刻まれた「傷」を、僕はずっと見ないふりをしていた。

 天才に出会って挫折したわけでもない。

 ただ、星に対する情熱が少しずつ色褪せていく自分が怖かった。


 (逃げていたんだ、あの頃の自分から)


 小さなころ、天体観測の本を抱えていた夜。

 部屋の窓から一人で空を見上げ、ノートに星のスケッチをしていたあの瞬間。


 そのすべてが今も心の奥で輝いているのに、なぜかそれを「過去」に閉じ込めようとしていた。


(あのときの僕は、夢中で星を追いかけていた。怖さなんて知らなかった。大人になるにつれて、夢を「現実的に」考え始めて、臆病になって……)


 机に置いた手が震える。

 視界が滲み、涙が一粒、机に落ちた。


 (あの頃の自分を、裏切りたくない)



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