同じ土俵に立って
進路票を提出して数日が経った。
心の中ではまだ、あの文字を思い出すたびに、小さな震えが走る。
(これで、本当に決まったんだ……)
学校では、進路を決めきれない生徒たちの会話が溢れていた。
友人の田中はまだ「決まらない」と笑っていたが、その笑顔の奥に不安が見える気がした。
そんな周囲を横目に見ながらも、自分は選んだのだという実感がじわりと広がっていた。
家に帰ると、リビングのドア越しに父と母の声が聞こえた。
父の声は低く抑えられているが、どこかぎこちなく、母の声は静かに寄り添うようだった。
ドアを開けると、父が僕に気づいてこちらを見た。
一瞬、視線が交わる。
僕は胸の奥がぎゅっと縮むような感覚に襲われた。
「おかえり、真冬」
「……ただいま」
短い挨拶を交わすと、父は視線を落とし、コーヒーを一口飲んだ。
(……話さなきゃいけない)
心の中で何度も繰り返してきた言葉が、喉の奥で詰まっていた。
でも、あの星の光を思い出す。あのときの決意を、何度も。
「父さん……少し話、いい?」
父は驚いたように眉を上げ、それから小さく頷いた。
「……あぁ」
母はそっと席を立ち、キッチンへ移動した。
静かな空気がリビングに残る。
僕は、父の前に座り、机の上で手を組む。
爪が食い込むほど、指先に力が入った。
「……進路票、出したよ。理系に、決めた」
父の顔がわずかに動く。
その視線は、僕を通り抜けるように遠くを見ていた。
「……そうか」
それだけだった。
それでも、僕は止まらなかった。
「星を……宇宙を、研究したいんだ。子供の頃から好きだった。……でも、ずっと怖かった。夢なんて、現実じゃないって思ってた。……父さんにどう思われるかも怖かった」
父は黙ったまま、手の中のコーヒーカップを握りしめる。
わずかに手が震えていた。
「でも、決めたんだ。……これが僕の道だって」
口にするたび、胸の奥が震え、吐き気にも似た不安が込み上げる。
けれど、その不安と一緒に、熱いものが流れていった。
「父さんは、ずっと現実を大切にしてきたよね。僕のこと、現実を見ろって言ってきた。でも……でも、僕は、夢を選びたいんだ」




