これが僕の進路
「理系に進む」――あの夜、星の下で自分の言葉として選んだその決意は、翌朝もまだ胸に残っていた。
いつもなら迷いの中で曖昧に目覚める朝が、今日ははっきりとした輪郭を持っている気がした。
リビングに行くと、父は新聞を読んでいた。
母は朝食を準備している。
「おはよう」
いつものように、父は短く返事をする。
「おはよう、真冬。今日は冷えるわね」
「うん……ありがとう」
母の優しい声に救われる。
父は新聞から目を離さずに、コーヒーを一口飲んだ。
「学校、遅れるなよ」
その一言だけだった。
でも、昨日のような冷たい棘は、少しだけ減っている気がした。
(……それだけで十分だ)
制服の胸ポケットに進路票の控えを差し込んで、家を出る。
吐く白い息が、まだ冬の名残を感じさせる。
(大丈夫、僕は決めたんだ)
胸の奥で繰り返す。
まるでおまじないのように、何度も。
教室に入ると、田中が大きな声で僕を呼んだ。
学校へ向かう道は、冬の朝独特の凛とした空気が張り詰めていた。
背筋を伸ばすと、少しだけ自分が強くなった気がした。
「おい! 真冬、昨日どうしたんだよ、帰り早かったじゃん!」
「……ちょっと、用事があって」
「ああー? 女の子とデートとかじゃないだろうな?」
「……は? んなわけないだろ!」
思わず声を荒げてしまい、田中が笑いながら肩を叩いてくる。
「ハハ、冗談だよ! でも、お前ちょっと変わったよな、最近」
「え?」
「なんつーか……前より顔がはっきりしてるっていうか、芯が通った感じがする」
そんなことを言われたのは初めてだった。
僕は何も答えられず、ただ苦笑いを返す。
(……変わった、のかな)
家に帰ると、母がいつもより少し豪華な夕飯を用意してくれていた。
「今日、進路決まったんでしょ? お祝いよ」
「……ありがとう、母さん」
「あなたが選んだなら、それが一番よ。……父さんも、ちゃんと分かってるわよ」
母の言葉に、少しだけ涙が滲みそうになった。
父は無言で箸を動かしていたが、食卓にいつもより優しい空気が流れていた。
食後、夜の街へ向かう。
今夜も星に会いたくて、奏さんに会いたくて、自然と足が公園へ向かっていた。
公園にはすでに奏さんがいた。
望遠鏡を準備しながら、僕に気づくと手を振ってくる。




