決めた
公園に着くと、そこにはいつもの望遠鏡と、白衣を着た奏さんが待っていた。
「おや、少年。今日はずいぶん慌ててるじゃないか」
「奏さん……僕、話したいことがあるんです!」
叫ぶように伝えると、奏さんはにっこりと微笑んで「よし、座りなさい」とベンチを指さした。
「……僕、ずっと迷ってました。星を捨てるか、現実を選ぶか。文系か、理系か……」
声が震える。
「僕は、怖かったんです。夢を追って、もしダメだったらどうしようって」
言葉が途切れそうになるたび、手が強く震えた。
「でも……僕、本当は星が、宇宙が、好きなんです!」
その瞬間、胸の奥で何かがはじけた。
言葉が、止まらなくなる。
「小さいころ、星を見上げてたときのワクワクが、ずっと消えなくて。でも、それを捨てようとしてた。周りに合わせるために、自分をごまかそうとしてました。でも、もう嫌なんです! 後悔するなら、夢を追いかけて後悔したい!」
奏さんは黙って僕の言葉を聞いていた。
「……僕、理系に進みます! もう決めました!」
言葉を吐き出した瞬間、全身の力が抜けた。
涙が止まらなかった。
でも、その涙は、今までの後悔や恐怖が溶け出していくような、温かい涙だった。
奏さんは、そっと僕の頭を撫でた。
「よく言った。これで、君は君自身の選択をしたんだ」
小さな声で、でも確かな誇りが滲む声だった。
「……怖さは、消えません」
「当たり前さ。夢を追うっていうのは、ずっと怖いままなんだよ。でも、だからこそ尊いんだ」
「はい……」
「少年、君の選んだ光は、これから未来を照らす。きっと眩しいほどにね」
僕は涙の中で笑った。
空を見上げると、もう星が瞬いていた。
今夜は、一段と強く輝いているように見えた。
(これが……僕の光だ)
頬を伝う涙を指で拭い、息を吸い込む。
「これから、きっとたくさん転ぶし、逃げたくなると思います。それでも……」
「それでも?」
奏さんが微笑む。
「それでも、また星を見上げて立ち上がります。何度でも!」
胸の奥で、確かな火が大きく灯る音が聞こえた気がした。
奏さんは、僕に手を差し出した。
「なら、これからは同志だな」
そっとその手を握った。
小さな手の中に、確かな温もりがあった。




