表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
20/47

決めた


 公園に着くと、そこにはいつもの望遠鏡と、白衣を着た奏さんが待っていた。

 「おや、少年。今日はずいぶん慌ててるじゃないか」

 「奏さん……僕、話したいことがあるんです!」

 叫ぶように伝えると、奏さんはにっこりと微笑んで「よし、座りなさい」とベンチを指さした。


 「……僕、ずっと迷ってました。星を捨てるか、現実を選ぶか。文系か、理系か……」

 声が震える。

 「僕は、怖かったんです。夢を追って、もしダメだったらどうしようって」

 言葉が途切れそうになるたび、手が強く震えた。

 「でも……僕、本当は星が、宇宙が、好きなんです!」

 その瞬間、胸の奥で何かがはじけた。

 言葉が、止まらなくなる。


 「小さいころ、星を見上げてたときのワクワクが、ずっと消えなくて。でも、それを捨てようとしてた。周りに合わせるために、自分をごまかそうとしてました。でも、もう嫌なんです! 後悔するなら、夢を追いかけて後悔したい!」

 奏さんは黙って僕の言葉を聞いていた。


 「……僕、理系に進みます! もう決めました!」

 言葉を吐き出した瞬間、全身の力が抜けた。

 涙が止まらなかった。

 でも、その涙は、今までの後悔や恐怖が溶け出していくような、温かい涙だった。


 奏さんは、そっと僕の頭を撫でた。

 「よく言った。これで、君は君自身の選択をしたんだ」

 小さな声で、でも確かな誇りが滲む声だった。


 「……怖さは、消えません」

 「当たり前さ。夢を追うっていうのは、ずっと怖いままなんだよ。でも、だからこそ尊いんだ」

 「はい……」

 「少年、君の選んだ光は、これから未来を照らす。きっと眩しいほどにね」

 僕は涙の中で笑った。


 空を見上げると、もう星が瞬いていた。

 今夜は、一段と強く輝いているように見えた。

 (これが……僕の光だ)


 頬を伝う涙を指で拭い、息を吸い込む。

 「これから、きっとたくさん転ぶし、逃げたくなると思います。それでも……」

 「それでも?」

 奏さんが微笑む。


 「それでも、また星を見上げて立ち上がります。何度でも!」

 胸の奥で、確かな火が大きく灯る音が聞こえた気がした。


 奏さんは、僕に手を差し出した。

 「なら、これからは同志だな」

 そっとその手を握った。

 小さな手の中に、確かな温もりがあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ