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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
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会いたい

 

 外はもう雪が積もり始めていた。

 歩くたびにキュッ、キュッと音が鳴る。

 (僕は、僕のままでいいのか……)

 頭の中で問いが渦巻く。


 公園に着いた頃、雪はさらに激しさを増していた。

 街灯に照らされた雪が、まるで夜空から星が降ってくるみたいに見える。

 (星……)

 自然と空を見上げた。

 けれど、雪雲に覆われた空には、星の光は一つもなかった。


 「……いないんだな」

 思わず呟く。

 そこに奏さんの姿はなかった。

 (そりゃそうだ、呼んでないんだから)

 それでも、なぜか心のどこかで彼女がいてくれる気がしていた。

 今夜だけは、その甘い幻想にすがりたかった。


 公園のベンチに腰を下ろすと、雪がコートに積もり始める。

 冷たい。

 それでも、その冷たさが、逆に心の奥に火を灯すような気がした。


 (僕は、怖いんだ……)

 (夢を追いかけるのも、捨てるのも、どっちも怖い)

 吐く息が白く広がる。

 ふと、雪の降る暗い空を見つめながら、自分の言葉を口に出してみた。


 「……でも、どっちにしても、後悔するなら、まだ夢を選んだほうがいい……のかもしれない……」

 声は雪に吸い込まれ、すぐに消えた。

 それでも、自分の耳にはちゃんと届いていた。


 (奏さんなら、どう言うだろう)

 「いいじゃないか、迷えばいいんだよ」

 「怖いなら、その怖さを抱えて進めばいい」

 心の中で彼女の声が何度も響く。


 (……もう一度、星を見よう)

 そのとき、胸の奥に、はっきりと小さな灯火が生まれるのを感じた。

 震える足で立ち上がる。

 身体は冷え切っていたが、その火だけは確かに温かかった。


 「……もう一度、見に行こう」

 声に出すと、雪の中で小さく光るような気がした。

 ゆっくりと歩き出す。

 雪は強く、視界はほとんど白かった。

 それでも、前に進む足は止まらなかった。


 自宅に戻ると、机の上に進路票の控えが置かれたままだった。

 そっと手に取り、見つめる。

 (書き直すかもしれない。それでもいい)

 迷っても、怖くても、また選べばいい。

 それが、僕だけの選択だと、少しだけ思えた。


 外は雪が降り続けていた。

 でも、その白い世界の中に、僕の小さな決意が、確かに存在していた。



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