決意
翌朝、いつもより少し早く目が覚めた。
昨夜の星空の余韻が、まだ体の奥に残っているようだった。
カーテンを開けると、冬の朝日が差し込んでくる。
まだ冷たい空気を吸い込みながら、窓の外を見つめる。
(進むと決めたんだ……理系に、星の研究に……)
その言葉を心の中で何度も繰り返すたびに、胸の奥が微かに疼く。
恐怖は完全には消えていない。けれど、その奥にある小さな光が、確かに僕を前に押していた。
制服に袖を通し、ネクタイを結ぶ手がわずかに震えていた。
(大丈夫、大丈夫だ……)
(……これでよかったのか)
胸の奥でずっと響いていた問いが、雪の冷たさに混じってさらに鮮明になる。
決めたはずの進路。
提出したはずの進路票。
あのときは確かに胸を張れた気がしたのに、時間が経つほどに、また疑念が生まれてくる。
(このまま理系に進んで、本当に後悔しないのか)
(あの夜見た星、あの光を、僕は本当に捨ててしまっていいのか)
自分の心が、何度も何度も同じ場所を歩き回る。
進んだはずの一歩が、まるで雪の上の足跡のように、すぐに消えてしまいそうだった。
気づくと、手は震えていた。
駅前の自販機で買った缶コーヒーを握りしめるが、温かさはすぐに指先から奪われていく。
(星を、もう一度見たい……)
奏さんの言葉が何度も蘇る。
「夢を一度捨てても、また拾えばいい」
「弱さを抱えたまま、それでも進むのが強さだ」
思い出すたびに、胸の奥が疼いた。
休み時間、担任の先生が僕の席にやってきた。
「白木、お前、進路調査票はどうなった?」
「……書きます。……いや、書きました」
「ほう、理系に進むんだな」
僕は小さく頷く。
先生は少し驚いた顔をしてから、ゆっくり笑った。
「お前が決めたなら、それが一番だ。夢を持てる人間は強いぞ」
「……ありがとうございます」
あたたかい言葉が、今の不安な胸に沁みる。
自分の決意が、少しずつ外に認められていく感覚は、怖くもあり、でも心地よかった。
放課後、教室の窓から夕暮れの空を見つめる。
茜色に染まる空には、まだ星の気配はなかった。
でも、その向こうに星が待っていることを知っているだけで、胸が高鳴った。
学校が終わり帰宅すると、リビングのテーブルに母の書き置きがあった。
『夕飯は冷蔵庫に入れてあります。進路のことは、焦らなくていいからね。』
その文字を見て、胸が詰まる。
(……焦らなくていいって、簡単に言わないでよ……)
心の中でそう叫ぶ自分に、嫌気が差す。
部屋に戻り、机の前に座る。
進路票の控えを見つめると、胸の奥に冷たい針が刺さるようだった。
(やっぱり、もう一度考えたい)
そう思うと、身体が自然に動いていた。
制服の上にコートを羽織り、マフラーを首に巻いて外に飛び出す。




