行き先
星を見終わり、望遠鏡から目を離してしばらくすると、奏さんがゆっくりと立ち上がる。
「少年、私にはもう一つ夢があるんだ」
「……夢?」
「宇宙に、自分の研究した機材を乗せること。それが叶えば、私は自分の存在を空に刻める」
そう言って、夜空を指さす。
「いつか、この手で新しい星を見つける。そして、その光を誰かに届ける。それが、私の未来の欠片だ」
彼女の言葉に、胸の奥の小さな灯火が少しだけ大きくなるのを感じた。
(……僕にも、そんな未来があるんだろうか)
「少年、君には君の未来がある。私のように無謀でもいい、ちっぽけでもいい。でも、その未来を、君自身の手で選んでほしい」
奏さんは、夜空に浮かぶ星をじっと見つめた。
僕も同じ方向を見上げる。
小さな光が、冷たい夜空に散りばめられていた。
(僕も、いつか……)
胸の奥で、微かな声がまた生まれた。
(まだ怖い。でも、それでも――)
奏さんが、そっと僕の肩に手を置いた。
その手はあたたかく、そして少し震えていた。
「約束しよう、少年。君がもう一度夢を見たいと思ったとき、私は必ずそばにいる。必ずだ」
「……はい」
声は小さかったが、その一言に込めた想いは、今までで一番大きかった。
夜空の星たちは、静かに瞬いている。
遠いようで、少しだけ近い。
その光が、未来の欠片のように見えた。
でも、もう怖くはなかった。
夜が更け、星の数が増えるにつれて、僕の中の迷いも少しずつ澄んでいく気がした。
「ありがとう、奏さん」
「礼なんていらないさ。君自身が、自分で進んだだけだよ」
公園を後にするとき、足取りは少し軽くなっていた。
空を見上げると、オリオン座がまだそこにあった。
(これから、きっと何度も立ち止まるだろう。でも、今度はそのたびに、また星を見上げればいい)
家の灯りが見えたとき、心の中で小さく呟いた。
(もう一度、あの頃の自分に会える気がする――)
第三章終了です!
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