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渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
14/47

お話

(星は、変わらずそこにあるんだな……)


 ふと、背後から砂利を踏む音がした。

 振り返ると、奏さんが白衣をなびかせながら近づいてくる。


 「やぁ、少年。また来たか」

 振り返った奏さんは、昨日までと違って、少し疲れたような顔をしていた。

 「……大丈夫ですか?」

 僕の問いかけに、奏さんはふっと笑う。

 「お、心配してくれるとは思わなかったな。嬉しいよ」


 そう言いながらも、その笑顔の奥には、隠しきれない影があった。

 「……昨日父さんに、話しました。進路のこと。……理系に進んで、星を研究したいって」

 「おお、それで?」

 「『好きにしろ』って言われました。でも……それが、嬉しいはずなのに、怖いんです」

 「怖い、か」


 奏さんは頷き、空を見上げた。

 「人は自由を手に入れると、同時に責任という鎖を首に巻く。進む道を選んだなら、その重さを感じるのは当然だよ」

 「……責任、か」

 その言葉が頭にこびり付いたような感覚がした。



 「今日はね、ちょっと特別な話をしようと思ってたんだ」

 「特別な話……?」

 「そうさ。君には話しておきたいことがあるんだよ」

 奏さんは、持ってきたノートパソコンを閉じ、静かにベンチに腰を下ろした。


 僕もその隣に座る。

 冷たいベンチの感触が背中に伝わり、夜気が肺に入り込む。

 それでも、胸の中の灯火が消えないことを感じていた。


 「少年、私は小さいころから星が大好きだった」

 静かな声で語り始めた奏さんの目は、どこか遠い場所を見ていた。

 「夜空の光を見ていると、どうしようもなく胸が熱くなったんだ。まるで、私を呼んでいるような気がしてね」

 「……わかる気がします」

 「だろう? けれどな、私はずっと夢を笑われてきたよ。『女の子がそんなことしてどうする』『現実を見ろ』って、散々言われてさ」

 言葉を吐き出すようにして笑う奏さん。

 その笑い声は、どこか悲しかった。


 「でもな、それでもやめなかった。やめられなかったんだよ。気づいたら、大学でも研究を続けていた」

 「……」

 「研究には結果がついてくる。けれど、現実は甘くない。論文は通らず、予算は削られ、指導教授には怒鳴られ……そんな日々ばかりだった」

 奏さんはふと手を見つめる。

 細く長い指先が、小さく震えていた。


「それでも、私は星を選んだ。それが、私の唯一の存在証明だからだ」

 その声には、静かだけれど強い決意が滲んでいた。

 僕は思わず息を飲む。

 (……奏さんも、ずっと迷ってたんだ)




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