表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渇夢を星夜に  作者: つなまぐろ
夢の死骸
12/47

翌朝

 父との対話を終えた夜、僕はずっと天井を見つめていた。

 部屋の空気は薄暗く、暖房の機械的な音が不気味に響く。


 胸の奥に、まだ重い痛みが残っている。

 言えた、という達成感と、これからどうなるのかという恐怖が、入り混じった複雑な感情になって渦巻いていた。

 (……これでよかったんだよな)


 父の言葉は短かった。

 けれど、あの「好きにしろ」という一言に、どれほどの重さがあったのか――まだ全部は理解できていない。

 彼の背中にあった微かな震え、それを思い出すと、胸が締めつけられた。




 「……そろそろ朝か」

 呟いて起き上がると、進路希望調査票が机の上で待ち構えている。

 今日提出しなければならない、その白い紙切れ。

 (これが、僕の未来を決めるのか)

 改めて見ると、ただの紙なのに恐ろしく見えた。


 制服に着替え、鞄に教科書を詰めると、最後に進路票を取り出す。

 手が震えていた。

 (理系……文系……)

 文字を見つめると、喉の奥がきゅっと締め付けられる。


 (昨日、少しだけ決意したはずなのに……)

 それでも、ペンを持つ手は、まるで重りがついているように動かない。

 (まだ怖い……まだ、決められない……)

 頭の中に浮かぶのは、夢を追う未来と、それを捨てる未来。

 親の顔、友達の顔、社会という大きな言葉。

 そして、何より「また失敗したら」という恐怖。


 「真冬、朝ご飯できてるわよ」

 母の声が階下から聞こえる。

 「……すぐ行く」

 ペンを机に置いて、階段を下りた。


 食卓に座ると、母が優しく笑いながらお味噌汁を差し出してくれる。

 その笑顔が、嬉しくて、同時にひどく痛かった。

 「進路票、書けた?」

 「……まだ」

 「そう……焦らなくていいのよ」

 優しい声が、逆に僕を追い詰める。

 母の言葉は優しい。でも、その向こうにある「期待」や「不安」が、僕にははっきりと見えてしまう。


 無言でご飯をかき込む。

 母はそれ以上何も聞かなかった。


 学校へ向かう途中、何度も鞄の中の進路票が気になった。

 歩きながら、鞄の中で紙がこすれる音がするたびに胸がざわつく。

 (書けなかったら、どうなるんだろう)

 想像するだけで胃のあたりがぎゅっと痛む。


 朝が来るまでほとんど眠れず、まどろむように学校へ向かう。

 教室のざわめきが今日はいつも以上に遠く感じられた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ