表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜騎士ワロンの成り上がり。  作者: 砕けたステンドグラス
序章 ワイバーンの里
5/9

5話

「――それで連れ帰ってきたのか。デート中に他の女の子をお持ち帰りしたのか」

「いや、デートじゃないですけど。親戚のお姉さんと空中散歩していただけですけど」

ワイバーンの里にある周囲より多少大きい家――屋敷の一室で父さんと向かい合って経緯を説明していた。まぁ経緯もなにも落ちていた少女を拾って持って帰ってきたと言っただけだが。


「お前、王都の貴族令嬢に僕と空中散歩しませんか? とか言うなよ? もう既成事実作られるからな? 家絡みで持ち帰られるからな?」

……この人は何を言っているのだろうか。いや、説教されるよりマシだけどさ。そもそも王都にも行かないし、貴族令嬢と会うこともないだろうに。


少女はアル姉が看病しているし、母さんもお祝いしなくちゃっと手伝いに行ったから問題ないだろう。……問題ないよね?


「それで、やっぱり山岳民族の子だよね?」

「まー、そうだろうな。ったく、国境付近まで行っているとは聞いてないぞ? 里が見える距離までって言っただろう。誰かに見られたらどうするんだ」

「いや、里が見える距離ってアースからしたらちょっと飛んでみた、くらいの距離なんだよ? 全然満足しないって。それに国境っていっても高度をあげればアースの目なら里も見える距離だよ。うん。約束は守ってるね。うん」

「お前の目で見えていない時点で守ってねぇな。それに俺が許可しているのは、そのちょっと飛んでみた、くらいまでなら許すって言っているんだ。国境まで何個よそ様の領地飛び越えているか分かったもんじゃないぞ。誰が見ているか分からないんだぞ?」

「あ、それは大丈夫。アースと飛んでいる時は基本的にウチの領地の山脈沿いに飛んでいるし、未踏破の地域しか飛んでないから。それに高度もそれなりだから下から見ても人が乗っているか分からないし、速度も結構早いから確認なんてできないよ」

「そういうことじゃないんだよ……。はぁ、もういい。どうせ遅かれ早かれ分かることだからな。それより今はあの子のことだな。……母さんはワロンがお嫁さん連れてきたって喜んでいたけど――――あれ結構本気で言っていた気がするんだがどう思う? まさか本気じゃないよな?」


知らんがな。というか、さすがに冗談だろ。誰が見ても山岳民族の子なんだから……?

「…………ん? そもそも山岳民族の人と結婚していいものなの?」

 いや、だって蛮族ですよ? いくら名ばかり貴族とはいえ、王国貴族の子息が結婚相手に選んでいいものなのか?

「え? そりゃ……いや、だって山岳民族だ、し。……いや、ダメってことは、ない、のか? いや、だが……いや、貴族で婚姻しているって話は帝国でも聞かないぞ? ……まて、ワロン。お前、本気でパートナーとして拾ってきたのか? 一目惚れか? 一目惚れなのか!? おっぱいか? おっぱいにやられたのか!? でもアルーネちゃんの方がおっぱいデカいぞ? ちなみに母さんのおっぱいはもっと大きいぞ」

「おっぱいおっぱいうるせぇ! そんなわけないでしょ。死にかけていたから連れてきただけだよ。そもそも僕たちが見つけた時は薄汚れていたし、そんな風には意識していないよ」


……確かにおっぱいは大きかったけど。それに化粧が崩れて汚れていたけど、顔立ちは整っていて可愛い感じはした。別にだからといって惚れたわけではない。おっぱいは大きかったけど。だがしかし、アル姉のを見慣れている俺にはあの程度、少々興味を惹かれるくらいのものだ。うん。


「…………薄汚れていて、悪かったわね」


部屋のドアが開き、アル姉と母さんに連れられ先ほどの少女がやってきた。

少女の声には、微かな怒りと、どこか尊大な響きが混じっていた。その声に圧倒され、俺は思わず言葉を詰まらせた。

少女の背後には、アル姉と母さんが立ち、苦笑いを浮かべている。どうやら俺達の下品な会話を聞かれてしまったようだ。


少女は腕を組み、こちらをジト目で見上げていた。

先ほどまでの泥まみれで疲れ果てていた姿とは打って変わって、洗われた身体は清潔感を取り戻し、肌に描かれていた模様もほとんど薄れていた。

どうやら手足にあった紋様も刺青ではなく、何かの塗料――おそらくペイントのようなものだったようだ。

身ぎれいになったその姿は、ジト目で睨まれているにも関わらず、思わず目を引くほどの美少女だった。

 俺より少し年上だろうか。……彼女の組んでいる腕に持ち上げられている胸に目がいって考えがまとまらない。天は二物を与えたもうたか。

父さんも「これはなかなか……」と呟き、母さんの目がギロリと光ったほどだ。

……ただ、何というか。なんか態度もデカい。思ったより元気そうだし、物怖じしないというか、経緯はどうあれ異民族の屋敷に連れて来られているのに全く動じていないように見える。

何なら彼女こそがこの屋敷の主人であり、俺たちが客であるかのようだ。


部屋のドアが閉じられると同時に、少女はまるで屋敷の主人のように堂々と歩き出した。背筋を伸ばし、不機嫌そうな表情を浮かべながらも、その姿勢と態度には一切の遠慮がなかった。

その目は鋭く、まるでこの場にいる全員を値踏みしているかのようだった。足取りには軽やかさがあり、先ほどまでの弱々しさはどこにも見えない。

少女の歩みが止まったのは、俺が座っているソファーの前だ。見上げると、冷たく研ぎ澄まされた目がこちらを射抜くように見下ろしていた。その視線は、まるで何かを見抜こうとするかのような鋭さと容赦のなさがあった。


少女は腕を組み、一歩こちらへと踏み出す。その動き一つひとつに、彼女の圧倒的な存在感がにじみ出ていた。


「…………盗み聞きはどうかと思いますよ?」

視線をそらさず、できるだけ自然な笑みを浮かべて声を絞り出したが、彼女はすぐに反論してきた。


「あら、人聞きの悪い。入ろうとしたら声が大きすぎて聞こえただけよ? それとも聞かれて困るようなことでも話していたのかしら?」

その言葉に、俺はますます言い返すことができなくなり、彼女の尊大な態度にただ圧倒されてしまう。

これが山岳民族なのだろうか? 少なくとも、今まで出会ってきた村人とはまるで違う。どちらかといえば――じい様に近い雰囲気すらある。


「……あー、とりあえず座ったらどうかな? まだ体調も万全ではないだろう?」

俺が言葉に詰まっていると父さんが助け船を出してくれる。少女はちらりと父さんを見てから、「……そうね。お言葉に甘えようかしら」と答え、ドスンと俺の隣に腰を下ろした。

三人掛けのソファーなのだが、なぜか彼女は真ん中に座わってくる。結果、俺のスペースが急速に侵略されつつあった。


「ほら、もっとそっち詰めなさいよ。座れないでしょ」

「いや、そっち十分に開いているだろ!? なんでこっちに寄ってくるんだよ!?」


健康的なもっちりとした太ももが俺の脚に押し当てられ、予想以上に強い力でぐいぐいと押されてついにはソファーの端まで追いやられる。

服越しでもはっきり伝わってくる温もりと柔らかな弾力に顔が赤くなるのを感じる。

「いや、なんで!? なんでこっち来るの! 何がしたいんだよ!?」

 そんな俺達のやり取りを、対面に座る父さんと母さん、そして一人用の椅子を持ってきて隣に座っているアル姉がニマニマと微笑ましいものを見るような、はたまた面白いものを見るような表情で眺めていた。

そしてその視線に気づいた少女は、顔を真っ赤にしてアル姉を睨みつけ叫ぶ。


「自分の椅子があるなら先に言いなさいよね!!」


先ほどまでの威厳や風格はどこへやら。今、隣に座っているのは、どこにでもいそうな年相応の――ちょっと可愛げのある少女だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ