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竜騎士ワロンの成り上がり。  作者: 砕けたステンドグラス
序章 ワイバーンの里
3/9

3話 

「あ、ワロン君、もっと左の方だよ。あの山を越えたらお隣の領地に入っちゃうよ」

「おっと、それはマズイね。アースもっと左でお願い!」

手綱の左側をクイと引っ張り方角を指示する。――何回飛んでもなかなか難しい。目印になるような建物もなく、似たような山々や森、平原が広がるため方角を見失ってしまうのだ。

一人だったらアースと相談しながら目的地を探しながら飛び回るところだが、アル姉は数回一緒に飛んだだけで周辺の地理を覚えたらしく、目的地までの正確なナビゲーターが可能なのだ。


俺達が向かっているのは人里離れた山中にある天然の温泉だ。

場所は隣国との国境の境目になっている山脈の頂上付近になる。険しい山脈地帯で人の足では簡単には踏み入れない未開拓領域にあるため、俺たち以外に訪れる者はいない秘湯だ。

探し出すためにアースと何日もかけて各地を飛びまわったものだ。……ちょ~と領地から飛び出しちゃうけど、誤差だよね。

ちなみにアル姉は、すでにグルセンバイヤ家の領地を抜けていることを知らない。お隣の領地は本当だけど、今飛んでいる未開拓地はグルセンバイヤ家の範囲だと教えたからだ。アル姉が言っているお隣の領地とは開拓されたエリアのことを言っている。さすがにそこを飛んだら万が一にもバレる恐れがあるからね。


しかし、元日本男児として湯に入らない風呂は風呂ではない。水で濡らした布で身体を拭くとか、蒸気が充満した小屋に座っているとか、桶にせっせと貯めたお湯に腰まで浸かるのは風呂とは呼べないのだ。そもそも里では水が貴重で大量に使うと怒られるのだ。


「グア、グルル」

「うん? いや高度はこのままでいいよ。あんまり高くなると寒いんだよ」

「グア!」


俺には特殊な能力がある。と言っても目に見えるステータス画面なんてものはないので、勝手にそう思っているだけなのだが。――俺は動物と意思疎通ができるのだ。

とはいえ、それほど便利な能力でもない。

動物とは言っても相性があるらしく、馬やウサギ、鹿などとは大して意思疎通ができるわけではない。せいぜい喜んでいることや嫌がっているといったことが何となくわかるくらいだ。これをスキルや能力だと声高に宣言するのは気が引ける。

検証するために森の中で動物を探そうとしたが、襲われる危険が高いので検証もほとんどできていない。

唯一ワイバーンとは幼い頃から触れ合う機会も多かったため、言語が違う外国人と話す程度の意思疎通はできていると自負しているくらいのものだ。

完全に言葉がわかるわけではないし、視線の動きなど表情や鳴き声、仕草などでおおよその意思疎通ができるだけだ。

それも俺が勝手に思い込んでいるだけの可能性もある。その程度の能力だ。


そのため俺がアースや他のワイバーン達に話かけていると、両親や村人たちからは暖かい目で見られている。子供の夢を壊してはいけない感がひしひしと伝わってくる。

それでも最近は「ワロンはワイバーンの気持ちが良くわかっているな」などと言われることもある。とはいえ、アースが付けている鞍も意思疎通ができなければ作れるはずがないのだ。

アル姉だけは俺がワイバーン達と話していることを信じてくれている。

実際、アル姉が俺と一緒とはいえアースに乗れていることがその証でもあるのだ。


 竜騎士である祖父――じい様であっても、自分の後ろに誰かを乗せることはできない。

アースには俺がアル姉を乗せて欲しいと頼み込んだから乗せてくれているのだ。もちろん最初は渋っていたが、相手がアル姉であることと、鱗磨きの時に使うブラシを馬毛から魔獣のボア毛に変えることで了承してもらった。……チョロかった。


 ちなみにアル姉一人ではアースに乗ることはできない。お世話をする関係で触れたり乗ったりすることはできるが、一緒に空を飛んでくれることはないのだ。

 ワイバーンは自分が認めた人物しか騎乗を許さない。お世話の関係でワイバーンの里の者は触れることもできるが、里以外の親しくない人物では触れることもできない。


 俺はワイバーン達と意思疎通ができるため、同族に近い扱いを受けているので大抵のワイバーンにはお願いすれば乗ることができる。

……とはいえ、今はアースが俺の騎竜なので、他のワイバーンに乗ると怒られる。

 俺が騎乗できることは里の人間とじい様、極一部の関係者しか知らない。


 下手に宣伝すると貴族のアレコレに巻き込まれる可能性がありそうなので、じい様に内緒にしてもらえるようお願いしたのだ。

 幸い、ワイバーンの里は人里から離れているので、普段俺がアースに乗って飛んでいてもばれることはない。村町に直接飛んでいくことはないからな。例外が数名いるがそれはまたの機会に。



「はぁ~、五日ぶりの温泉楽しみだねぇ~」

むぎゅーとアル姉が後ろから抱きしめてくる。俺の頭に頬ずりしながら温泉に入ることを想像して惚けているようだ。

「そうだねー、帰ったらまた父さんに小言言われるだろうねー」

以前は一人で隠れて行っていたので、あまり見つかることはなかったし、見つかってもアースと遊んでいただけ、騎乗の練習と言えばそれほど文句も言われなかった。

しかしアル姉と一緒にお出掛けとなるとそうはいかない。ただでさえ俺以外は二人乗りができないのだ。誰かに見られたら騒ぎになるし、家臣家門の連中がこのことを知れば俺を次期当主へと担ぎかねない。

そのうえ、父さんはワイバーンに騎乗できない。一族で一番率先して世話をしているのだが、なぜか距離を置かれている。

そして以前、母さんがアル姉を乗せて飛び立った俺と、隣でその光景を見ていた父さんを見比べて深いため息を吐いたそうだ。とばっちりである。母さんにガッカリされて息子に当たる父親である。

これで母さんを乗せて飛んだらどうなるか分からないので、アル姉が特別だったということにした。アル姉以外は乗れない、と。


「おじさんもいい加減認めてくれてもいいのにね。本当なら毎日行きたいのに、おじさんのせいで週に一回がいいところだもんねー、ぷんぷん」


 頬を膨らませて自分でぷんぷん言っているアル姉に苦笑しつつ、父さんに小言を言われるのと、毎日温泉までアル姉を連れて行くこととどちらがいいのか考える。

……考えるまでもないか。俺も毎日風呂に入りたい。とはいえ、そう簡単な話でもないのだが。


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