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 軽薄な笑みを崩さずに、ディナとマリスを観察する。見た感じ、二人とも俺とそんなに歳が離れていない。十代後半くらいだろう。


「二人でダンジョンにいるってことは、パーティを組んでいるのか?」


「あっ、はい。そうです。今回の探索では、ディナさんとパーティを組ませてもらっています」


 ちょっとだけ肩を震わせると、マリスはぎこちない口調で経緯を説明してくれる。がんばって話そうとする本人の努力が伝わってくるので、応援したくなるな。


「そ、その……わたし知り合いが少なくて、パーティを組める相手がいないので……」


 どんよりとした陰気な空気を背負ってうつむくと、マリスは乏しい人間関係を打ち明けてきた。

 

 そこまでは聞きたくなかったよ。俺も似たようなものだから。


「…………」


 さっきから二人のことを注意して見ているが、俺のそばにいても動揺した気配はない。上手く隠しているのか、それとも本当に違うのか。

 

 二人組のパーティとはいえ、一人で偵察に行くことだってある。相方と別れている間に、もう一人があの現場を見た可能性は十分にありえる。


 もしもこの二人のどちらかが、俺がアンデッドに噛まれたところを目撃した人物だとすれば、非常に厄介だ。


 アンデッドに噛まれた人間なんて、治す手段がない場合は手っ取り早く殺したほうが被害が少なくて済む。


 放置してくれるのならまだいいが。そうでなかったら、自分の身を守らなきゃいけなくなる。


 長年時間を共にしてきた仲間ならともかく、親しくもない冒険者なら始末するのに迷いはないだろう。


「ディナは短剣使いで、マリスは魔術師ってところか?」


「は、はい。ザインさんも魔術師ですよね?」


 マリスは頷くと、俺が握っている杖を見てくる。


「まぁな」


 ヘラヘラと笑いながら正直に答える。


「回復系の魔術は使えるのか?」


「あっ、いえ。わたしが使えるのは攻撃系の魔術ばかりで……」


 マリスは視線を泳がせながら魔術師としての性質を述べてくる。どうやら俺と似た傾向の魔術師のようだ。


 回復術師みたいに【浄化の魔術】を使えるわけではないか。


 ディナのほうは戦い方を見るに、魔術はからっきしなんだろう。


 もしもここで【浄化の魔術】を使えるのか尋ねでもしたら、どうしてそんなことを聞いてくるのかと怪しまれてしまう。自分からアンデッドに噛まれたことを自白するようなものだ。


 二人のうちどちらかが【浄化の魔術】を使えるなら、アンデッドに噛まれたことを話してもよかったが、使えないなら黙っておいたほうがいい。バレてしまったら、その後の展開は俺にとって不都合なものになる。


 二人の分析を終えると、なるべく思考が顔に出ないようにヘラヘラと笑ったまま【収納の魔術】を発動させて杖を異空間のなかにしまう。


 マリスも同じように【収納の魔術】を発動させて、握っていた杖を空間の裂け目のなかに収めていた。


「二人は最下層を目指しているのか?」


「は、はい。第十階層にいるダンジョンボスを倒して、奥にあるという宝を手に入れるのが目的です」


 マリスは両手の拳を胸元に寄せながら、ダンジョン攻略が目標であることを伝えてくる。


「宝っていうのは……」


「ふ、『封印の剣』かもって言われてます」


 それはこの島の伝承に出てくる伝説の剣だ。


「島のダンジョンのどこかにあるって情報だったんですけど、他のダンジョンではどれだけ探しても見つからなくて。最近になって、未攻略である『死者の栄光』のダンジョンボスが守っている宝が、『封印の剣』なんじゃないかって……」


 マリスはたどたどしい口調で、自分たちがここに足を運ぶに到った情報を話してくれる。


 冒険者たちの間では、『封印の剣』が『死者の栄光』にある可能性が高いと見なされているのか。


「『封印の剣』は、不死の王を斬り裂いた黄金に輝く聖剣だと言われてますから、入手できれば途方もない額でギルドに買い取ってもらえるはずです」


「……聖剣?」


 そう聞き返すと、マリスはキョトンとする。


「えっ、あっ、はい。そうですけど……どうかしたんですか?」


「いや、なんでもない」


 ニヘラァと笑って、軽く手を振っておく。


 マリスはビクッとすると視線をそらしてきた。人と目を合わせるのも苦手みたいだ。


 マリスの言うとおり、伝説の聖剣が本当にあるとすれば、とても値段がつけられるものではない。冒険者ギルドに渡せば、一生遊んで暮らせるほどの大金が手元に入ってくるのだって夢ではないな。


 その夢のために、危険を冒してダンジョンにもぐる冒険者たちだっているわけだし。命を懸けるからには、相応の報酬がないと。


「わ、わたしの実力じゃ、最下層まで行ってダンジョンボスを倒すのは厳しいでしょうけど、ディナさんがいればそれも不可能じゃないです。実際ディナさんは、何体かのダンジョンボスを既に倒していますから」


 自分の名前が出ると、ディナはフッと鼻で笑ってみせる。


「他のところのボスどもは歯応えがなかったからね。ここのボスには期待しているよ」


 ダンジョンボスは並みの魔物とは比較にならないほどの強さを誇っている。そいつらでさえも、ディナにとっては物足りない相手だったようだ。その自信は当人の実力からきているのだろう。


「運悪くアレに出くわしさえしなければ、ボスのもとにはたどり着けそうだな」


 俺の言いたいことを察すると、マリスは眉を下げる。


「あぅ……死神ですか?」


 この島のダンジョンには、特異な存在がいる。ダンジョンボスを遙かに凌駕する強さであり、戦えばまず勝ち目はない。階層は関係なく突如として現れる、自然災害じみたモノ。


 ……死神。冒険者たちがそう呼んでいるように、アレはダンジョンの理不尽そのものだ。


「し、死神に会ったら、さすがに逃げるしかないですよね……」


 マリスは両手を組み合わせて、後ろ向きな考えを吐露する。


 冒険者としてはそれが正しい判断だ。死神と戦って勝てるだなんて考えてはいけない。生き残るためには逃げるのが最善だ。


 もっとも、必死に逃げたところで、逃げきれずに命を落とした冒険者のほうが圧倒的に多いが。


 なのに、頭がどうかしている好戦的な冒険者は死神とも戦いたがる。ディナもそのタイプかと思ったが……。


「……死神」


 消え入りそうな声で呟くと、ディナは鋭い目を細くしていた。


 ……なんだ?


 何かを真剣な表情で考え込んでいる。それはダンジョンボスに対する軽視とは明らかに違う感情だ。死神に何か思うところでもあるのか?


 しかし、すぐにディナは口元をほころばせた。


「死神だろうがなんだろうが、このダンジョンのお宝を頂くことに変わりはないんだ。邪魔するなら殺すまでさ」


 思案顔を崩してクヒヒヒヒと笑ってくる。やっぱり頭がどうかしている好戦的な冒険者のようだ。


 死神との戦闘もいとわないディナとは対照的に、マリスは泣きそうな顔になっていた。不憫だな。


 ディナが戦うという選択をするかぎり、パーティを組んでいるマリスも必然的に巻き込まれることになるだろう。





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