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拾った子供は魔王でした  作者: 森野うさぎ
8/21

episode 08

ハルことサンチェスは、カイゼルの事が気に入らなかった。


5年ほど前、父が突然、森を治める魔族の領主の座を、息子であるサンチェスに譲り、母と旅に出ると言い出した。



「お前の母さんと結婚してから、25年…一度も旅行らしい旅行へ連れて行ってやっていないからな…。


これからは二人でのんびり過ごしたいんだ。」



そんなこと言われたら、サンチェスは、引き留めることも出来なかった。


《俺はまだ20歳にもなっていないのに…。》


そう思いながらも笑顔で見送った。



両親が旅立って数ヶ月後、七つ年下の妹の異変に気が付いた。


突然、不似合いな大人っぽい服を着始めたのだ。


露出度の高い、妙に男に媚びていそうな?


両親が居ない今、妹のことは兄が見なければいけない。


頭ごなしに叱っても、気の強い妹は聞かないだろうと思い、配下の者に、こっそり見張らせた。


すると、我が領地の森から、広い湿地帯を挟んで向こうの森の魔王カイゼルに懸想しているという。



カイゼルとは、歳が同じ事もあり、子供の頃は、よく一緒に遊んだ。


森を抜け出して、湿地帯を探検していたときに、やはり向こうの森を抜け出して、湿地帯を探検していたカイゼルに出会ったのだ。


他所の領地の魔族との出会いも新鮮だったし、何となく気が合い、仲良くなったのだ。



やがてカイゼルは、両親を事故で亡くし、魔王となった。


森の向こうの、更にその先の山の向こうへ視察という名の旅行へ行こうとして、山のドラゴンに襲われ、母親を庇って父親が亡くなり、母親も逃げ切れずに亡くなった。


その葬儀には、父に連れられ、ハルも行ったのだが、後に、そのお礼にと訪れたカイゼルを見て、サンチェスの妹が一目惚れしたというわけである。



しかし普段、接点が無いわけである。


考えた妹は、連日、やたらと大人っぽい服を着て、カイゼルが治める森の入口をうろつき、偶然を装って、カイゼルに声を掛けていた。


それを知ってもサンチェスは、妹のことは黙って見守っていた。


カイゼルの事は子供の頃から知っていて、信頼していたのだ。


カイゼルも、それでも最初は相手をして、子供扱いをして、送り返していたのだが、あまりのしつこさに、ウンザリして無視するようになった。


流石に露骨に嫌そうな顔をされて、無視されれば、心も折れそうになるというものである。


泣く泣く城へ戻り、可愛さ余って憎さ百倍とばかりに、兄にカイゼルに対する恨み辛みを号泣しながら訴えたのである。


妹が可愛いサンチェスは、冷静な判断力など完全にどこかへ捨て去った。


カイゼルが妹を弄んで捨てたと勘違いし、逆上の上、カイゼルへ決闘を申し込んだのが3年半前。


というか、理由も告げずに、いつもの湿地帯へ呼び出しただけだが。



そしてカイゼルは、何か不穏なものを感じ、一緒に行くと言うラルフを説き伏せて、一人でのこのこと出ていき、いきなりサンチェスから攻撃を受けたのだった。



そこからは、湿原が荒野になるほどの死闘が繰り広げられた。

サンチェスは、いきなり無言のまま、カイゼルへ向かって魔族性の攻撃を向けた。



「シャドーランス!」


避けながらカイゼルも驚愕の表情を浮かべて叫んだ。



「何でいきなり攻撃するんだ!」



「胸に手を当てて考えろ!何で俺の妹を弄んだ!」



「はあ?!お前の妹なんて会ったことも無いし、知らないよ!」



「妹が嘘をついたとでも言うのか!?」



「だから何の事か分からないから、先ず説明しろって言ってるだろ!」



「え~い!しらばっくれるのか?!卑怯なヤツめ!ダークフレア!!!」



「何をしやがるんだ!」



長い戦いの末、最後の最後にお互いに放った渾身の一撃は、お互いの魔力を限界まで使い果たすことになり、双方、地に落ちた。


そのままもう全く魔力が残っていないまま、気力のみでそれぞれの森へ帰り着き。



サンチェスは心配した妹と配下によって城へ運ばれ、そのまま赤子の姿になってしまい、妹や配下に世話され数年が過ぎたのである。


やがて小学一年生くらいまで戻った時に、サンチェスは、カイゼルも同じだろうと考え、再びカイゼルに戦いを求めようと、やってきて、海に拾われたわけである。


サンチェスの誤算だったのは、海の膨大な魔力を与えられて…もとい、奪って育ったカイゼルは、既に高校一年生くらいになっていたのである。



正直言って、サンチェスは、かなり焦った。


なぜカイゼルは、自分より遥かに早いスピードで、魔力を得て成長しているのか、分からない。


このままではカイゼルに勝てないばかりか、下手すると、領地の森を奪われてしまう可能性もある。


しかし、何の気なしに、海に口づけして、その魔力の元が海であると気が付いた。


カイゼルは、海のことを餌扱いしている。


《イヤイヤ!こんな使える存在を、餌とか無いだろう!何が何でも手に入れなくては!》


と、サンチェスは、海に嫁にならないかと、プロポーズしたというわけである。


サンチェスは気が付いた…海を手に入れた者は、大きな力を手にするも同然であると。


しかしすっかり忘れていたのである…何故にカイゼルと戦いを繰り広げているのかと言うことを。


そう…彼は妹のことを失念しつつあった。



まあ、そもそも妹のことは、失恋した妹が、あること無いこと兄に吹き込んだ上、サンチェスも鵜呑みにして怒り心頭に発した結果なのだが。


サンチェスの脳内には、カイゼルと戦闘中ということと、鼻を明かしてやりたいということしかなく、その為の手段でもあり、その事そのものも鼻を明かせるのが、海の奪取である。


当の海は、あまり何も考えていないのだが…。

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