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拾った子供は魔王でした  作者: 森野うさぎ
4/21

episode 04

こんにちは。森野うさぎです。


海の新たな出会いで、魔王様とはどうなるのでしょう?

ケビンと出会った日、帰宅した海は、珍しくかなり機嫌が良く、流石に俺様なカイも、街で何かあったと気が付きました。


「外食は楽しかったようだな…。」


「うん!楽しかったよ!他の街に住んでいる人だけど、知り合いが出来た!

その人の住む街では、黒髪も別に忌避されていなくて、普通に居るんだって!」


楽しそうな海を見て、カイは何故かイライラしました。


「へぇ~ナンパされて浮かれているわけだ…。」


「別にナンパじゃないし、浮かれてもいないし!

久しぶりに誰かと話して楽しかったってだけじゃない!」


「久しぶりに誰かと話してって、俺と毎日、喋っているじゃないか!」


「あ~…はいはい…あなたとの会話は、会話っていうよりも、あなたの我儘を聞いているだけだけどね…。」


「何だよ!気に入らねぇのかよ!」


「あ~もう良いや…。私、メニュー開発しなくちゃいけないし、自分の晩御飯を作らなくちゃいけないから、また後でね…。」


海はそう言ってキッチンスペースへ行ってしまった。

その背後では、カイが妙な顔で海の背中を見つめていた。


翌月、滅多に街へは行かない海は、ワインをいつ、受け取りに行けば良いのか分からず、引換券は常にお財布に入れたまま、次に買い物へ行ったときに、お店へ立ち寄り、聞いてみようと考えておりました。


そしてその日は、ニョッキを作っておりました。

と言っても、普通のニョッキは存在するため、変わり種のニョッキを研究しておりました。


確実に失敗しないのはカボチャのニョッキ…他にオレンジやレモンを試しておりました。

オレンジソースとかレモンソースに合わせたら、行けるのではないかと。


そんな時に、今まで誰も来たことの無い、ドアのノッカーが打ち鳴らされました。


「え?!誰?!」


眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしながら、取り敢えずカイに寝室に隠れているように言いました。


「どなたですか?」


ドアを開けずに聞きました。


「え~と、こちらって海さんのお宅で合っていますか?先月、街のカフェでお会いしたケビンです。」


「あ…!」


慌てながら海はドアを開けました。


「ケビンさん!どうしてここが?」


「ジーナの店への今月分のワインと、受注分のワインを届けに来たんですよ。

それで妹から君はいつ来るか分からないって言われて、でも家の場所は分かるっていうから、じゃあ俺が持っていくよって、持ってきたんだけど…急で迷惑だったかな?」


「そんな事は無いんですけど…少しだけ待ってもらえますか?」


海はそう言って、家の中へ戻り、慌てて作っている途中のニョッキにしっかりと粉を掛け、蓋をし、材料とともに、棚の中へ取り敢えず突っ込みました。


「お待たせしました。」


再びドアを開け、悩む海…。


「え~と…家の中というわけにはいかないんですけど、良かったらそこでお茶でも如何ですか?」


海の家の玄関のところは、デッキが広くなっていて、ドアの横にはベンチとテーブルが置いてある。

どうせ人も滅多に通らないからと、天気が良い時は、海はそのベンチでぼーっとしていることもあった。


「一人暮らし?」


「ん〜時々遠くの知り合いの子が泊まりに来ていますけどね…。」


「でもそうだよね、女性の家に男がそんな簡単に入ってはいけないものね。

では折角だから、そこでお茶でも頂こうかな?」


海はケビンをベンチに案内し、紅茶を取りに家の中へ戻った。


「丁度、午前中に作ったお茶菓子もあるので、良かったらどうぞ!」


一緒にクッキーも出した。

クッキーも試作品で、様々な動物の形にくり抜いてあった。


「へぇ?!こんなの初めて見た!可愛いね!」


「ありがとうございます。私、料理とかのレシピを売って生計を立てているんです。

こんな髪だから、この街では働きに出られないし…私を助けてくださった方が、大きな街の商人の方で、色々なお店をやっているとかで、経営している飲食店用のレシピを考えて買ってもらっているんです。

このクッキーもちょっと良いかなって思って焼いてみたんです~。」


「…そうなんだ〜他にはどんな料理とか考えているの?」


「ごめんなさい。それは話せないんです…。」


「あ、そうだよね?!それを売っているんだもんね?ごめん!ごめん!」


そして他愛もない会話をして、ケビンは海の注文したワインを置き、海は引換券を渡し、また次はジーナのお店で食事でもと約束して別れた。


数日後、海はいつものように、食料品店へ買い物に出掛けました。

いつものように一週間分近い食材をまとめ買いし、支払いを済ませると、顔なじみになっているお店の奥さんが、思い出したように何かを差し出してきました。


「そうだ!良いものをあげるよ!今、話題のクッキーでね、とても斬新な形で、特に子供や若い女の子に人気なんだって!」


そう言って差し出してきたのは、猫の形のクッキーでした。


驚いて見ていると、何も知らない奥さんが言いました。


「可愛いだろ?!他にも鳥の形とか犬の形とかあって、これ、すぐ近くのカフェでロナルドとジーナって若い夫婦がやっているお店があってね、そこでジーナが考え出したクッキーなんだって!

焼いている端から売れているらしいよ!

丁度今朝、買ってきたから、一つ、お裾分けだよ!」


「…そうなんですか…ありがとうございます…。」


やっとの思いで言い、家へ帰ってきた。


あぁ~やられちゃった…アイディア、盗まれたんだ…。

ペラペラと喋った私が悪いんだ…。

そう思いながらも、落ち込むのはどうしようも出来ませんでした。


友達…とまではいかなくても、一緒にお茶を飲むくらいの知り合いは出来たと思ったのにな…。

良く知らない人を、信用してはいけなかったんだ…悲しいし、悔しい…。


海は、家の裏の畑の隅に少しだけ作っている花畑の脇に置いてあるベンチで、一人で泣きました。


貰ったクッキーは、食べる気にもならず、テーブルの上に放置していました。


森を散歩して帰ってきたカイは、そのクッキーを見て、海が作ったものだと思いました。

でもこっそり尻尾を齧ってみて、少し前に海が焼いていた、動物の形のクッキーとは味が違うと気が付きました。


カイは、人間の食べるものは食べないと言いながらも、実は時々、海の作った物を、少しだけ齧っていたのでした。


「この前のクッキーは変わっていて旨かったけど、今回のは味は普通だな…。」


カイは、家の中を海を探し、居ないので、裏の畑を見渡してみた。

隅の花畑のベンチに海がうずくまっているのを見つけ、森で採ってきたアケビや木苺を持って、そこへ行った。


「ほれ!土産…森へ様子見に行ってきたから…。」


そう言っても海は顔を上げなかった。


「あのさ、テーブルの上のクッキーよりも、少し前に作っていたクッキーの方が旨いと思うぞ?

前のは変わった味だったけど、何か香りも良くて、上品な味だったけど、今回のは味は普通だった…。」


「…食べたの?」


「…少しだけ齧っただけだ…。」


「…食べたんだ…。」


「いや…舐めた程度だ…。」


「…そう…。今日のは私が作ったんじゃないの…。」


「でもあんな形、お前が作っているのを見たのが初めてだぞ?教えたのか?」


「教えたつもりは無いけど…でもこの前の試作品を、人に食べさせた…。

その人が勝手に教えちゃったんだと思う…。

でもレシピまでは教えていないから、形しか真似出来なかったんだと思う…。」


「…お前さ、そのレシピで商売しているんだろ?試作品を信用できない奴に食べさせるなよ…。」


「…信用できると思っていた…私のミスです…。」


「…そいつに報復したい?」


「凄い悲しいし悔しいけど…でもいい…悔しいから、真似できないようなクッキーのレシピを作る…。」


「舐める程度なら、俺が味見してやるから…。」


「最初からカイが味見してくれていたら、他の人になんて食べさせなかったのに…。」


その後、大きな街のカフェでは、立体的な花の形のクッキーが大流行しました。

その見た目もさることながら、味もバラの香りにバラの風味だったり、木苺やブルーベリー、オレンジ等の風味のクッキーでした。

それまで、クッキーというと、素朴な味の物ばかりでしたので、物珍しく、真似をしようとするお店も多数、ありましたが、立体的な形にするのも難しく、花や果物の風味というのも難しく、本家に敵うものはありませんでした。

商人が海の暮らす街の食料品店にも、買い易いお手頃価格のバージョンを卸したので、この街でも話題になりました。

ジーナの動物の形のクッキーは、可愛いけど味は普通という事で、海が考案したクッキーには敵いませんでした。


海はあれからカフェへは行きませんでした。

するとある日、ケビンが再び訪ねてきました。

海は、どうしようと思ったのですが、家に入れるのは嫌だし、どこかのお店へも行きたくなかったので、再び、玄関の横に置いてあるベンチへ促しました。


「今日は…美味しいお茶やお菓子は出してくれないの?」


「…動物の形のクッキー…ケビンがジーナに教えたんですか?」


「あぁ~そうだね…。」


「私、あの時、料理のレシピを考えて、それを売っているって言いましたよね…。」


「…そうだね…。」


「だからもう、何も出せません…。手痛いけど勉強になりました。

それで今日はどんなご用件でいらっしゃったのですか?」


「最近、食料品店で人気の、変わったクッキーってあるじゃない?あれ、買って食べてみたんだ…。

あれって君が考えたんでしょ?前にここで食べさせてもらったものと似た味がした。

お店の人に聞いたら、大きな街の商人から卸してもらっているって言っていたけど…。」


「…そうですね…作って販売しているのは私じゃないですけど、元々は私のレシピです…。」


「ジーナの動物クッキーがあんまり売れなくなっちゃってさ…。」


海が無言でいると、ケビンが続けた。


「勝手にジーナに君のアイディアを教えたのは悪かったよ…。

でもさ…ジーナにも君のレシピを教えてやって欲しいんだ…。」


「…前にも言いましたけど、私は自分で色々な料理のレシピを研究して、それを売って、生計を立てているんです…。意味、分かりますか?

あなたは私が苦労をして考え出したものを、勝手に人に教えてダメにして、更に今、それを簡単に人に教えろって言っているんです。

自分で何も無い状態から考える大変さって分かりますか?

あぁ~分からないですよね、だから平気でそんな事を言えるんですもんね。

もう帰ってください。

そしてここへはもう来ないでください。」


そう言って海は、家の中へ入っていった。

閉めたドアに寄りかかり、海は静かに泣いた…。


裏から入ってきたカイが言った。


「お前さ…男を見る目、養えよ…目の前にとっておきのが居るのに、何、変なのに引っ掛かってんだよ…。」


見た目小学生くらいの魔王に言われてもね…。

海は噴き出した。


「目の前のとっておきって誰よ?

私の目の前には、乳離れ出来ないお子ちゃましか居ませんけど?」


「何だよ!お前が協力してくれたら、あっという間に元のイケメン魔王様に戻るんだからな!

その時になって、俺に惚れても遅いんだからな!」


顔を赤くして言うカイに、海は落ち込んでいたのも忘れ、笑いが止まらなくなったのでした。


「イケメン魔王様…面白過ぎる!!!」


「?!」


ずっとギクシャクしていた海とカイでしたが、久しぶりに距離が近くなりました。



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