episode 03
こんにちは。山野うさぎです。
ほぼ引きこもりの海に、新たな出会いが生まれました。
カイは相変わらず暴君で、人の4倍の速度で成長していくため、外見は2年経つ頃には小学校低学年くらいの見た目になっていました。
話を聞くと、実は中身は最初から20代半ばくらいの様でしたが。
見た目は小学校低学年の俺様暴君は、家事は一切手伝わない…けれど色々と我が儘放題。
いや、我が儘放題だから暴君なのか。
しかも当に歯も生えているのに、相変わらず人間の食べ物は食べようとせず、毎日、朝晩、海のおっぱいを貪っていました。
部屋は狭いし、新たなベッドを作る余裕も買う余裕も無いため、同じベッドで寝ていました。
そして朝は起きると、海が起きる前に、勝手に貪り、夜は流石に海も意識はありましたが、日々の疲れでそのまま寝てしまうことも。
「何か最近、お前、色気が皆無になってきていないか?
何か、もうその辺に転がっている丸太の樹液でも飲んでいる気分になってきた…。」
「…もういい加減で乳離れしなさいよって事でしょ…。」
「…やだ…。人間の食べ物ではロクに魔力が戻らない…。」
「…はぁ~…。あなたせめて家の手伝いをするとか、しなさいよ。
完全に居候じゃない…。」
「イヤイヤ!拾ったら責任持って、最後まで面倒をみて下さい!」
「捨て犬か!」
それでも海にとって、カイの存在は、気晴らしにもなっていました。
黒髪は忌避される地域に住んでいることもあり、海は必要最低限しか、街へ出ません。
そして可能な限り、帽子などで髪を隠すようになっていました。
だから日常で、会話をする相手が殆ど居ないのです。
街へ出たときは、顔なじみになった人とは、多少は話しますが、他の人が来ると、海はその場を去ってしまいます。
黒髪の海に対しても、多少でも話をしてくれる人が、海と話していたことで、他の人たちから悪く言われないようにと気を遣って。
小屋を譲ってくれた商人も来ますが、数ヶ月から半年に一回くらい。
しかも彼は直ぐに他の街へ向かってしまうため、小屋へ滞在するのは長くても半日。
因みにカイは、最初こそは預かったと言うことにしていましたが、カイが話せると分かってからは、商人が来ているときは、隠れて貰うようになりました。
商人は、あれからも海が考え出すレシピを高額で買ってくれました。
最初のレシピは、大きな街のレストランで、大反響だったそうです。
それでレストランは大繁盛して、支店を出すほどだとか。
なので今後も沢山、珍しくて美味しい料理のレシピを考えるようにと。
ただ、海にとってレシピを考えることは、孤独との戦いでもありました。
作っても食べて貰えないのです、誰かには。
どこかで誰かが食べて喜んでくれるかも…その思いだけで作っているものの、目の前で拒否されるのは、なかなか辛い。
その日、海は聞いてみた。
「ねぇ…人間の食べ物は、食べられないの?食べたくないの?どっち?」
「食べる必要性が無いから食べない。」
「ん…でもさ、私としては、ずっと一人で食事をする事に、寂しさも感じているのよ。
でも現状では、この家に誰かを呼ぶことも出来ないでしょ。
何というか…たまにでも良いから、一緒に食事、してくれないかな?」
「…やだ…。」
「…聞いた私がバカだったわ…。」
この頃から二人の間は少しずつギクシャクし始めました。
会話が少なくなり、海は元気が無くなっていきました。
ある日、海はいつものように、街へ買い物に出掛けていきました。
「カイ、今日は街へ買い物に行ってくるから。
気分転換に外でお昼も食べてくるから、帰りはいつもより遅くなるから…。」
「分かった…。」
海は、お気に入りのワンピースを着て、街へ出掛けていきました。
その日、海は、先ずは日用品だけ購入し、次に食料品店ではなく、街のカフェのようなお店へ初めて立ち寄りました。
店内へ入ると、一瞬お店のお姉さんは、目を見開いたものの、直ぐに笑顔で挨拶しました。
「いらっしゃいませ!空いているお席、お好きなところへどうぞ~」
海はおずおずと、テラスの隅の、人目に付かない席へ座りました。
テーブルの上に置かれたメニューを見ながら、何にしようか悩んでいると、お姉さんがやってきました。
「お決まりですか?」
「あの…お薦めは何ですか?」
海は思い切って聞きました。
「お薦めは、私が好きなのはラザニアと、それにミートソースのスパゲッティも美味しいですよ。
ミートソースがお薦め何です。」
そう言われて海は、ラザニアを頼みました。
「この時間はランチタイムで、ワンドリンクが付きますよ。」
と言われ、ドリンクはグラスのワインも可能と聞き、白ワインを頼みました。
直ぐにお姉さんが、よく冷えた白ワインのグラスを持ってきてくれて、早速一口飲みました。
「美味しい!」
思わず呟くと、お姉さんは満面の笑顔になりました。
「ありがとうございます~これ、私の実家で作っているんですよ。」
「あの…このワインは、どこかで買えたりしますか?」
海は思い切って聞きました。
「この街では、このお店でのみ、注文販売はしていますよ。
良かったら注文なさいますか?」
「あの…それは1本とか2本でも買えますか?」
「勿論、大丈夫ですよ!月に一回か二回、この店へ卸して貰う分と一緒に持ってきてもらうので、取り敢えずお試しで買って頂いても、気に入って頂けたら、また翌月とか、翌々月とか、若しくは何か特別なときの前に、ご注文とか出来ますよ。」
「では取り敢えず1本、お願いして良いですか?
お支払いはこの食事代と一緒に帰るときにで良いですか?」
「勿論、大丈夫です!
ではお帰りになる時までに、引換券をご用意しておきますね!」
そんな話をしていると、ハニーブラウンの髪の青年が一人、店へ入ってきました。
真っ直ぐこちらへやってきて、私の前の椅子を引きながら聞いてきました。
「ここ、相席させてもらっても良いかな?」
「お兄ちゃん…いいかな?じゃなくて、返事をする前に座っているじゃない!
ごめんなさい!静かに食事、したいですよね?うちの兄なのですが、移動させますので!」
お店のお姉さんは、青年の首根っこを掴みました。
「あの…大丈夫ですよ!私と一緒のテーブルでも嫌で無ければ!」
「ありがとう!君は何をオーダーしたの?あ、白ワインとラザニアだね!
ジーナ!お兄ちゃんにも同じのを頼むよ!」
青年は海の返事を待つまでもなく、お姉さんが運んできた物を見てオーダーしました。
「君はこの街の人?俺、ほぼ毎月、一回か二回は来ているけど、君に会うのは初めてだと思うんだけど?」
「あ~はい、2年ほど前にこの街に来まして、街外れに暮らしているのですが、いつもは必要な物を時々、買いに、街へ来るだけで、街で食事をするのは初めてなのです。
この街では黒髪はあまり良く思われないって聞いているので。」
「そうなんだよねぇ~僕の住む街では、黒髪って普通に居るんだけどね。
だからこの街で見掛けるのは珍しいなって思って…いや正直言うと、綺麗な人だなって声を掛けたんだけどね!
いや、好奇心半分、下心半分かな?!」
そう言って青年は笑った。
「所で俺はさっきの店員…ジーナって言うんだけど、その兄で、両親と他の兄弟とワイナリーをやっているケビンです。君は?」
「あ、私はこの街の外れの小さな家で、ある商会のために料理のレシピの開発をしている海と申します。」
それから二人は、楽しく食事をし、時を過ごしました。
「ごめんなさい。私、まだ買い物があるので、そろそろ帰らなくてはいけないんです。
でも本当に楽しかったです。ありがとうございました。」
海がそう言うと、青年は少し残念そうに言った。
「そうか~こちらこそ楽しかったよ!ありがとう!
また俺がこの街へ来るときに、都合が合えば、会って貰えるかな?」
「でも私と居ると、目立ちますし、ご商売に差し支えるかもしれないですよ…。」
海は寂しそうに言った。
「大丈夫だよ!俺はこの街へは妹の様子見に親から言われて来ているだけで、この街で商売はしていないから!ダメかな?」
上目遣いで言われ、海も叱られた子犬みたいと思い、それ以上は断れなかった。
「私で良ければ声を掛けてください。」
「ありがとう!楽しみにしているよ!」
そして二人は別れました
海はいつもの食料品店で食材を買い、気分良く帰宅しました。