episode 01
はじめまして、森野うさぎです。
ささやかな癒しを求めて書いてみました。
少しでも誰か、私以外の方の癒しにもなれば嬉しいです。
2024年8月8日 改訂しましたが、文そのものは変えておりません。
行間を少し変えてみました。
それと名前を少しだけ変えました…元の所には“森野うさぎ”と書いていたのに、各エピソードの前置きには“森野すずめ”と書いていたんですよね…おバカな事に。
山育ちの私なので、子供の頃に、山で野生のうさぎは何回か見ているのです。
それで森野うさぎ…でも山ですずめは、あまり見掛けなかったので、敢えてのすずめも面白いなと悩んでいたので、うっかりしてしまいました。
失礼致しました!
山科海22歳。デザイン学校を出て就職したDC系アパレルは、超ブラック企業でした。
毎日深夜まで残業は当たり前、残業手当?それ何?先日は隣の部署の先輩が、血を吐いて亡くなってしまいました。
私もずっと胃が痛い日々が続き、病院へ行く暇なんて無いから、会社近くの薬局へ行ったら、病院へ行くようにと心配されました。
あ~もうダメだ、そろそろ限界かな?会社は最低な会社だったけど、仕事は好きだったんだけどな…と思いながらベッドへ入り、気が付いたら森の中に倒れていました。
「ここ、どこ???」
夢の中なのか?だったらどうしたら良いのかな?
今日は折角の週末、休みだから、本でも読もうと思っているのに、寝ている場合じゃないのにと考えました。
覚めるようすの無い夢に、困って立ち尽くしていると、馬車が通り掛かりました。
その馬車が止まり、声をかけてきました。
「あんた、こんなところで立っていたら危ないよ。この森には魔王が住んでいるって言われているんだから。」
「あの、私、気が付いたらここに居て、ここがどこかも分からないのですが…。」
「捨てられたのかい?!あ~あんた、良く見れば黒髪なんだな。
俺は色々な国を旅してきたから、黒髪に嫌悪感もそれほど無いけど、この国では黒髪は魔王の色で、嫌悪されるんだよ。
仕方ねぇなぁ~この先に俺がこの村での宿がわりにしている小屋があるんだが、取り敢えずそこへ行くかい?」
どうして良いかも分からないし、野宿も怖いので、ついていくことにしました。
とはいえ、レイプとか売られるとかも嫌なので、距離は保って。
その小屋は、元は老人が住んでいたのだとかで、居間と寝室が一つずつあるだけで、更に広くはない裏庭と、馬小屋があるだけのまさしく小屋でした。
(あぁ~亡くなった田舎のおじいちゃんの家の、小屋の一つと同じ大きさだよ~)と心の中で思った海でした。
海の祖父は、割と大きな農家を営んでいて、平屋建ての大きな母屋に、二階建ての蔵と、そして農機具などを入れていた大きな小屋、更に山羊や鶏を飼っていた小屋には、薪を積み上げていた部屋もありました。
その山羊小屋兼鶏小屋兼薪等を置く小屋と同じ大きさ…。
まあ野宿よりはマシというところでした。
聞けば、通りかかったのは様々な国を行き来している商人で、この国での商いは、それなりに規模も大きくなってきたため、小屋は手放し、王都に邸を購入するところなのだそうです。
小屋は手放すと言っても、王都からは離れているし、その街の中心地からも外れているため、二束三文にしかならないとか。
なので海に売ってあげようかと言ってくれたのですが…。
「すみません…私、お金を一銭も持っていません…。」
「え!?あんた!それでどうやって暮らしていくつもりだい?!」
「本当にどうしましょうね…。」
「…あんたね…俺が悪者だったら、今頃は娼館へ売り飛ばされているよ…。
っていうかそんな状態では、今からでも油断すれば娼館行きだよ…本当にどうするの?」
「あの!私の知識を買ってもらえませんか?それでこの小屋を私に売ってください!」
「知識って…あんたにどんな知識があるんだい…。」
「う〜ん…料理と裁縫ですかね…。洋服のデザインも出来ますよ。」
「じゃあな、先ずは今夜の晩飯を何か作ってもらおうか。それからだな…。
材料は俺が今、手元にあるのは、チーズとパンと卵と牛乳、砂糖と塩、芋とハムくらいだな。
全部を一気に使うなよ!」
海は、少し考えた後、小屋にあった器に卵を割り、牛乳を入れ、砂糖と塩を少々で甘みを出し、そこへスライスしたパンを漬け込みました。
更に芋の皮を剝き、細かめの短冊切りにし、ハムも同様に短冊切りにしました。
ハムは、脂身も多いハムだったので、脂の部分を少し切り、熱したフライパンで焼き、脂を敷きました。
そこへ卵液に漬けておいたパンを入れて両面をきつね色になるまで焼きました。
焼けたパンは更に取り出し、そこへ短冊切りの芋とハムを入れ、炒めはじめました。
ある程度火が通ったら、そこへチーズを切って入れ、ハムと芋のチーズ焼きです。
野菜が芋しか無いのが残念ですが、仕方がない。
パンに砂糖を少しだけ振り出来上がりです。
「とりあえずここにある物だけで作ったので、バランスは微妙ですが…。」
そういいながら海は、その商人に作った料理を出しました。
「ん?!何だ?!これは!旨いじゃないか!!!」
そう…海が作ったのは、フレンチトーストもどきと、ガレット…にするには粉が無かったので、ガレットもどきのチーズ焼きでした。
この世界にそんな料理が既に存在するのかどうかが分からなかったので、取り敢えず作れるものを作りました。
美味しければ、例え既存の料理だとしても、次のチャンスを貰えると考えたのです。
結果、どちらもこの世界には存在しなかったようでした。
「王都では、レストランもやる予定だから、分かった!採用しよう!お前、王都で働く気は無いか?」
「でもこの国では私の髪の色は忌諱されるのですよね?
そんな新しいお店に私が居るのは、良くないと思うのですが…。」
「だよなぁ~…。でも分かった、では最初にお前が言った通り、レシピを買い取ってやろう。
それで売れるようなら、更に他のメニューを開発しろ!それに対し、賃金を払ってやる!それでどうだ?!」
「是非!お願いします!」
というわけで、先ずは今回のフレンチトーストもどきと、ガレットもどきについて、正確なレシピを渡された紙に書いた。
油は出来ればバターが良く、出来上がりに掛けるのは、砂糖、若しくは砂糖とシナモン、若しくはハチミツでも良い。
バターやクリームを添えるのも良し。
ガレットもどきは、今回はチーズ焼きにしたので、まあそのまま。
フレンチトーストもどきのバリエーションも豊かな事もあり、小屋はそのレシピの代金の一部として譲られることになりました。
それプラス、レシピの開発費として当面の生活できるくらいのお金も頂けました。
今後、レシピを開発するにも、誰にも全く関わらずに生活していくことは難しいので、翌日、商人のお兄さんが、近くの街の人たちに、海を紹介してもらえることになりました。
「紹介はするが、その髪色だから、あまり良い扱いはしてもらえないと思うが、そこは我慢しろよ。」
「とりあえず平穏に暮らせれば、それで良いです…。」
その日は商人は寝室に寝て、海は今のソファに丸まって眠りました。
翌朝、今度は芋とハムでスープを作り、パンは一回少しだけ蒸した後で焼き、スクランブルエッグを挟んで卵サンドにしました。
これもとても評判が良く、レシピを聞かれました。
そして午前中のうちに、商人さんに連れられて、街の主だったお店へご挨拶に伺いました。
皆さん、やはりあまり好意的ではない引き攣った笑顔でしたが、でも何か嫌がらせとかをされるのでなければ、別に良いと考えていました。
昔、前の世界で、ビールで髪を脱色というのが流行ったことがあるのですが、この世界でも出来るのかな?
もしできるなら、少しでも髪の色を明るくした方が良いのかな…なんてことも考えながら、家へ帰りました。
商人さんは、挨拶がてら、当面の食糧を買ってくれて、暗くならないうちに少しでも先へ進みたいからと、昼頃に去っていきました。
海はまずは小屋の中の掃除からです。
今日の午後は、掃除や少しでも暮らしやすくなるように、片付けをしようと張り切りました。
先ずは寝室…寝室には少し大きめのベッドと、サイドテーブルがあるだけなので、掃除は早く終わり、居間に移りました。
掃除だけは早く終わったのですが、まあカーテンや、色々なものを変えるのは、少しずつお金が手に入ってからと考えました。
「明日からは先ずは裏庭を改造しよう。少しでも自給自足しなくちゃね。
あ、後は冬場のことも考えなくては!暖炉があるってことは、冬場は寒いって事よね?
薪を集めておかなくてはね…。」
そんなことを考えながら、その日はそれまでと違い、パンだけの食事で眠りました。