邂逅1
電車が減速をはじめたのは、出発してからそう時間を置かなかった。
体感30分ぐらいだろうか。
電車はゆっくり減速を始めた。
少しずつ減速をしているのか、ほんの些細な揺れだが無振動で走行していた時間が長すぎたためか、体で感じやすい。
「到着、到着、終点『驛ス邏ャ蜿ウ蠕』駅、終点『驛ス邏ャ蜿ウ蠕』駅」
電車内に設置されたスピーカーから終点に到着するアナウンスが告げられる。
「終点、終点『驛ス邏ャ蜿ウ蠕』駅」
「降りるか。」
席を立ち電車入り口の扉の前に移動する。
乗り込む際、この扉は自動ドアだったため開閉するのを待つ。
この場所に来るのはかなり苦労した。
走ったり、考察したり、意識を失ったりと。
俺の求めている目的地かどうかは分からないが、期待するぐらいは許してもらおう。
「ウィーン」
扉は自動で開いた。
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「ガヤガヤ、ガヤガヤ、ガヤガヤ」
左右どこを見渡しても人、人、人。
数え切れないほど大人数の人がこの集会所に召喚されていた。
電車から降りた瞬間目が開けられない程の光量に襲われ、目を滲ませ閉じた。
光量が収まり目を開けた次の瞬間、俺はここに降り立っていた。
ある程度間隔を空けて立っているためか、狭苦しいと感じることはない。
それしても、
「ここには、同年代しかいないのか?」
俺が見える範囲には大人は1人もいない。
逆に言えば歳の離れた子供もいない。
大体中学生から大学生ぐらいか。
「意外とみんな落ち着いているな」
俺と同じ状況であるならばパニックに陥ったり大声をあげ場を混乱に陥れる奴がいると思った。
しかし周りを確認してもそんな様子はない。
今なおこの集会所に人が増える。
どこからともなく人が突然現れるが誰も驚く様子がない。
俺もあの様にこの場にやってきたのだろう。
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「ふむ」
何故誰も混乱していないのか何となくわかった。
要するに誰も混乱していないからだ。
突然ここに召喚された人達も、最初は不安に思ったのかもしれない。
しかし周りには大勢自分と同じような人がいて、尚且つ落ち着きを払っている。
そして新たに「自分」と同じような人が召喚されている。
それを見て「自分」は思うのだ。
「この状況に置かれているのは自分だけではない、周りに大勢いる人たちも同じだ、」と。
つまりは、周りが混乱していないから誰も混乱していないという、首の皮一枚繋がった状態なのだ。
一見そうは見えないが、誰かが突然パニックに陥ったとしよう。
次の瞬間その起点を中心に円状にそのパニックは全体に広がっていき、取り返しのつかない状況になるのではないだろうか?
「と言っても俺にできることなんて何もないが。」
今の俺に出来ることは何もない。
せめて知り合いを探すぐらいだが、こんな大勢の人の中で知り合いを見つけるなんて土台無理な話だ。
そもそも知り合いと呼べる人少ないし。
今はこの停滞した状況を打開する何かが起きて欲しい。
人を集めるだけ集めて何もしないと言う事はないだろう。
ここに人を集めた理由があるはずだ。
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俺にできることは何もない、と言ったがアレは嘘だ。
一つこの場でもできることがある。
それは情報収集。
ココには大勢の人がいる。
周りには少しずつだが会話し始める人が増えた。
「どこからきたんですか」とか、「何歳なんですか」とか。
質問の系統を聞く感じやはり皆初対面なのだろう。
だが今出来る最大限の方法といえば他人と会話して何でも良いから情報を得ることだ。
もしかしたら俺の知らない事を知っているかもしれない。
しかし、ここで大きな、非常に重要な問題が出てくる。
残念なことに俺自身にコミニケーションの能力が備わっていないのだ。
周りに大勢人が居るのに、なぜ1人でいた時と同じ様に頭の中で考え事をしているのかお察しのことでしょう。
周りに話しかける度胸がないのだ。
初めはそれでも良いと思っていたが周囲を見渡すと、俺が召喚された時に比べて明らかに言葉を交わしている人数が増加している。
他人との情報交換は俺にとってアドバンテージになるやもしれない。
だけどどうやって話しかければいいのか、、、
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そんな事を悶々としながら考えていた。
「ねぇ」
誰に話しかければいい?
大人っぽい人がいいだろうか?
それとも同世代で話しやすそうな男子?
そもそも何と声をかければいい?
「ねぇ.....」
相手に良い印象を与えなければならない。
もしゴソゴソ、ボソボソ喋るようでは相手にされないかもしれない。
ハキハキと自分の言いたいことを喋る必要がある。
相手の話を真剣に聞くのも重要だ。
そう考えると意外に簡単な話かもしれない。
まずは「少しお時間いいですか」と落ち着いた口調で話しかけた方がいいだろう。
どうせ話しかけるなら大人ぽい人がいい。
この中では大学生だろうか。
建設的な話ができるやもしれん。
「ねぇってば!」
よし、大体の想定は決まった。
あとは、誰に話しかけるか決めるだけだが、、、
それにしても誰かがさっきから呼ばれている、誰だろう?
女の子っぽいし、俺じゃ無さそうだ。
「あんたに言ってんのよ!いい加減こっち向きなさいよ!」
「痛ってぇ!」
俺はいきなり足を踏まれた。
全然嬉しくない。
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