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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
四章 新たな精霊術師

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25 再会


 エウフェミアはケント・リーヴィスとその友人とともに大広間を出ていった。少ししてシリルもその後を追い、彼らが入った部屋を確認する。


(どうするべきか)


 シリルは考える。


 今頃室内ではエウフェミアがケントに交渉を持ちかけているだろう。助力したいのは山々だが、このタイミングで扉をノックするのは彼女の邪魔になるかもしれない。


 そんな風に考えているとき。廊下の奥――大広間とは反対方向から人影が現れたことに気づく。そちらを向いたシリルは黒づくめの男が見知った相手であると理解した瞬間。男に勢いよく迫っていた。


「今まで何をしていたんですか!」

「よお。守備はどうだ?」


 地を這うような低い声の問いかけに対し、アーネストは飄々と返す。それが余計、シリルの神経を逆なでする。


「――本当にいったい何をしていたんですか?」

「ちょっとした野暮用だよ」

「しがない商人でしかないあなたが、迎賓館でどんな野暮用があるって言うんですか? まさか知り合いにでもあって、商談でもしてたと言うんですか?」

「ちげえよ。毒にも薬にもならないような話だよ」


 面倒くさそうに彼は答える。シリルは切り替えて、話を変えた。


「あなたがサボっている間に、我々はケント様を見つけましたよ。ちょうど今、エフィさんがケント様とお話をしています」


 シリルはアーネストを連れて、客室の前に戻る。改めて、扉をノックをする。


 しかし、いくら待っても返答がない。再度扉を叩くが変わりない。


 一度、アーネストと顔を見合わせる。それから、シリルは決心してドアノブを捻る。


「失礼します」

 

 そして、扉を開けた向こう側を見て、シリルは衝撃を受けた。


 迎賓館に相応しい豪奢な客室。ソファにもたれかかるケント・リーヴィス。そして、ガラノス家の仮装をした男に抱きしめられているエウフェミアの姿だった。



 ◆



 突然のことにエウフェミアは混乱していた。なされるがまま、イェレミアスの腕の中にいる。そのとき、聞きなれた声が耳に届く。


「エフィさん!」


 顔を動かす。扉の向こうにシリルとアーネストの姿が見えた。


 ようやく我に返ったエウフェミアは相手の体を押しのけようと腕に力を入れた。


「離していただけませんか」


 そう言うと、ハッとしてイェレミアスはこちらを開放してくれた。数歩後ろに下がり、落ち着かない様子で手や体を動かす。それから、肩を落とした。


「すまなかった。嬉しくて、つい」


 シリルが間に割って入る。不穏な雰囲気だ。エウフェミアはガラノス家の青を知る青年に訊ねる。


「あの、どこかでお会いしたことがあるのでしょうか?」


 彼はエウフェミア――ガラノス家のエウフェミアを知っているようだった。しかし、エウフェミア自身には心当たりがない。


 イシャーウッド伯爵家に嫁ぐまでは親族以外との接点はなかった。それ以降に出会った誰ともイェレミアスは結びつかない。


 そして、気になるのは彼の瞳の色。仮装で髪色は誤魔化せても、本来の瞳の色だけは変えられない。


 そんなことを考えていると、イェレミアスが自身の仮面に手を伸ばす。そして、自身の青色の髪を掴んだ。


 ウィッグであるそれは外すことができる。そして、その下から現れたのは――燃えるような真紅だ。


 仮面の下から現れた顔つきは若い。エウフェミアと同世代くらいだろう。つり上がった目尻と整った顔立ちは泰然とした印象を与えるものだろう。しかし、肩を落とした今は落ち込んでいるように見えた。


(もしかして)


 真紅の髪と瞳。十代後半。ケントを友人と呼ぶ人物。その特徴を兼ね備えているのはきっと帝国で一人だけだ。


 エウフェミアがそのことを指摘する前に、シリルが驚いたような声をあげる。


「ビオン様」


 イェレミアスと呼ばれていた青年――いや、ビオン・エリュトロスはシリルではなく、その後ろのエウフェミアに話しかける。


「エウフェミア。俺のこと覚えていない?」


 彼の態度は明らかに知り合いへ向けてのものだ。しかし、エウフェミアはビオンに会ったことはない。


(ずっとガラノス家の屋敷か、イシャーウッド家の別邸から出られずにいた。今まで彼に会う機会なんて――)


 そこで気づく。たった一度だけ、同い年の同じ七家の人間と接触する機会があった。


「もしかして、私たち八年前の精霊会議で会っているの?」


 期待から声が弾む。


 ビオンは不思議そうに首をひねってから、頷いた。



 ◆



「どうやら積もる話があるようだ。我々は退散しよう」


 そう気を利かせてくれたのはケントだった。彼はシリルを連れて部屋から出ていく。


 部屋にはエウフェミアとビオンの二人だけ。二人はソファに並び合って座る。先に座らせてもらったエウフェミアの隣をビオンが選んだのだ。


 同じ精霊術師の青年を相手に、ほとんどありのままの事情を説明する。一通りの話を終えると、ビオンはポツリと呟いた。


「……そう。八年前のことは覚えてないのか」


 それは明らかに落胆したものだった。あれだけ再会を喜んでくれたのだ。当然の反応だろう。エウフェミアはただ謝ることしかできない。


「ごめんなさい。『無色の城』にいる間のことは何も思い出せないの」


 俯いていたビオンがこちらを向く。複雑そうながらも、笑顔を作ってくれた。


「そうだよな。……あんなことがあったんだ。思い出せなくなってもしかたない」

「八年前の精霊会議で何があったか知ってるの?」


 ビオンは神妙な面持ちで頷く。


「もちろん。ガラノス家当主と次期当主……それと右の眼(デクシア)が亡くなられた」

「――なら、お父様たちが亡くなった理由を知っている?」


 エウフェミアは思わず身を乗り出す。勢いから半分ビオンに乗りかかるような態勢になる。


 ビオンは驚いたように体をのけぞりつつ、目を見開く。それから、気まずそうに視線をそらした。


「ごめん。それは知らない。あの日、俺はずっと『赤の談話室』にいたんだ。精霊会議では最初に七家の当主の会議があって、その後に十歳になった子供たちが大精霊たちと謁見することになってる。会議が終わって火の大精霊(フォティア)様との謁見の時間までそこで待っているように言われてたんだ。……謁見は結局ゴタゴタでなくなってしまったけど。エウフェミアのお父さんたちが亡くなってしまったというのは父さんに教えてもらったんだ。でも、それ以上のことは教えてもらえなかった」

「……そう、なのね」


 その答えに落胆しながら、エウフェミアは居住まいを正す。


 考えてみれば当時のビオンは十歳。その歳の子供に人の死にまつわる情報は教えられないだろう。


(やっぱり、エリュトロス精霊爵にお会いしないといけないんだわ)


 ニキアスの話からも。ビオンの話からも。エリュトロス精霊爵が情報を持っているのは間違いない。


 エリュトロス精霊爵ゲオルギオスに会わなければ。エウフェミアはその想いを強くした。


※エリュトロス家当主の名をゲオルギオスに変更しました。

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