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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
四章 新たな精霊術師

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24 思わぬ成果


 はじめてのダンスは緊張感がありながらも、なんだか心が弾んだ。


 青年はダンスが上手くないと言ったが、素人のエウフェミアをうまくリードしてくれた。きっと、他の参加者たちが見ていればおかしなステップだっただろうが、十分楽しいものだった。


 踊り終え、エウフェミアは感謝を伝える。


「ありがとうございました」

「お礼を言うのはこっちだ。ありがとう」


 そう言ってから、青年は一度目を伏せる。それから、少し感傷的に呟いた。


「君を見てると昔会った女の子のことを思い出す」


 エウフェミアは首を傾げる。


 それは半分独り言だったのだろうか。青年は話題を変えた。


「おかげで元気が出てきた。会場に戻るよ。大分長くここにいたから友達も心配してるかもしれない」

「少しはお役に立てたならよかったです」


 安堵から笑みがこぼれる。そして、青年はこちらにも訊ねてきた。


「君はこの後どうする? 俺は友人のところに戻ろうと思うが」

「……そうですね」


 エウフェミアは一度、大広間へと視線を向ける。ここからではシリルたちの様子は見えない。しかし、彼と別れてからまだそれほど時間が経っていない。戻るには少し早いかもしれない。


「よかったら一緒に来るか?」


 答えが返ってこないことで、エウフェミアのこの後の予定が決まってないことが分かったのだろう。青年はそんな誘いをしてくれる。


「よろしいのですか?」

「彼らの話に混じって君が楽しいのかはよく分からないが。嫌じゃなければ、どうだろう?」


 悩んだ結果。エウフェミアは青年の誘いを受けることにした。


 会場にはシリルが今接触している赤髪の青年以外にそれらしき候補はいなかった。それなら、どこかの会話に混ざり、情報を集めるのもいいかもしれない。


「それでは、喜んで」


 二人でバルコニーから大広間に戻る。それから、青年はとある集団を指し示す。


 そして。


「あそこ。あの長い赤い髪をしているのが友達のケント」


 当たり前のように彼はそう言った。



 ◆



 その集団の会話に加わってどれくらい経っただろうか。


 シリルはすぐに、赤い長髪の青年がケント・リーヴィスであると確信する。しかし、本題を切り出すことはできずにいた。


 その理由は、一緒にテーブルを囲う若者たちだ。そのほとんどに覚えがある。公爵家や侯爵家――地位の高い家の者たちだ。何だったら主催のオートレッド公爵子息もいる。


 この状況でどう動くべきか。シリルはそのことを悩んでいた。


 思った以上に知った顔が多い。下手な動きをすれば、シリル自身の今後に影響があるかもしれない。


 もし、面識がある相手がケントだけならこうも迷わなかっただろう。エウフェミアと引き合わせるにあたり、シリルの素性は必ず知られてしまう。しかし、それ以外の相手にはできるだけ素性を隠しておきたい。


 あの気に食わない会長は否定すればいいと言っていたが、ここにいるメンバーは誰もが社交界で大きな影響力を持つ。彼らなら、本当が何か分からない仮装舞踏会(マスカレード)においても、シリル・レイランドが参加していたということを真実にしてしまえるだろう。 


 彼らの会話は盛り上がっている。しかし、シリルは緊張と警戒心からうまく会話に混ざれない。精々相づちを打つくらいだ。


 だが、そこでケント・リーヴィスの視線がこちらを向いた。


「あなたも楽しんでるかな?」


 突然話題を振られたことに、シリルは動揺する。彼はどこか楽しそうに言葉を続ける。


「あまり言葉数が少ないから。せっかくの出逢いだ。会話を楽しもうじゃないか」


 仮面越しに見えるのは緑の瞳だ。まっすぐに向けられるそれは、こちらの正体を看破しているようにも思える。


 ――いや、もしかしたら、そうなのかもしれない。


 シリルが輪に加わることを許可してくれたのはケントだ。他のメンバーの中には露骨に嫌そうな反応を見せる者もいた。気のおけない親しい友人たちで話しているところに知らない相手がやってくればそういう反応にもなるだろう。


 こちらが相手の素性に気づいているように、相手もこちらの素性に気づいている可能性がある。


 ――緊張が走る。なんと返すべきか。


 シリルが口を開いた瞬間。後ろから声が聞こえた。


「ケント」


 その声に勢いよくシリルは振り返る。そこに立っていたのはガラノス家の仮装をした青年だった。


 仮装舞踏会(マスカレード)で本名を呼ぶのはご法度だ。マナー違反をしでかした青い髪の青年にケントは演技がかった大げさな反応を返す。


「イェレミアス! 僕のことはアレクシオスと呼んでくれよ! 偉大なるエリュトロス家の祖の名だ」


 イェレミアス。アレクシオス。


 精霊庁の人間であれば、その名にピンとくるだろう。アレクシオスは彼が言ったように初代エリュトロス精霊爵の名。イェレミアスは初代ガラノス精霊爵の名だ。


 しかし、ケントの抗議にイェレミアスと呼ばれた青年は反応しなかった。淡々と話を続ける。


「少しいいか? ――彼女が君に話があるって」


 そう言って、彼が示したのは後ろにいた令嬢だ。ケントと同じ真紅の髪色の少女。それは先ほど別れたはずのエウフェミアだった。彼女はシリルの視線に気づくと、困ったような笑みを浮かべた。



 ◆



 それからすぐにエウフェミアたちは別室へと移動した。大広間のすぐ隣にある客室だ。


 部屋に備えつけられたソファに座ると、早速ケントは本題に入った。


「それで、僕になんの用かな? お嬢さん」


 今、部屋にいるのは他にはイェレミアスだけだ。あの状況でシリルを連れてくることもできず、三人でここまでやってきた。後で合流してくれるとは思うが、今はエウフェミア一人で切り抜けるしかない。


 ケントは大きなため息を吐く。


「やっとイェレミアスが女の子と話してくれたと思ったのに。まさか、愛の告白とか言わないよね? やだよ。親友といい雰囲気になれそうな女の子を寝取るなんて」


 彼の発言にはよく分からないが部分もある。そのことには触れず、エウフェミアも本題を切り出した。


「リーヴィス様はビオン・エリュトロス様と交流があるとお伺いしております。引き合わせていただくことはできないでしょうか?」


 それはかなり不躾なお願いだっただろう。実際、面くらったようにケントは固まった。それから、怪訝そうに訊ねてくる。


「なぜ?」

 

 その疑問はもっともだ。エウフェミアはろくに説明もせず、こちらの要望を先に伝えてしまったことを後悔する。


(きちんとお話しないと)


 まさか偶然知り合ったイェレミアス経由でこんな風にケントと話せるとは思ってもみなかったのだ。突然のことで、エウフェミア自身も心の準備ができていなかった。


 一度深呼吸をする。それから、仮面とウィッグを外した。銀色の髪が落ちてくる。


 驚いたようにこちらを見つめるケントに貴族流のお辞儀をする。


「ご挨拶が遅れました。私はエウフェミア・フロマと申します。先日、皇帝陛下に新しくお認めいただいた万象の精霊術師でございます。――そして、生命の精霊(プシュケー)様の恩寵を得る者です」


 その名乗りは未だ恥ずかしいものだが、目的のためなら恥も捨てよう。エウフェミアは必死に訴えかける。


「エリュトロス家の方にどうしても取り次いでいただきたい事情がございます。どうかぜひ、ケント様のお力を――」

「エウフェミア?」


 そのとき。突然、イェレミアスが声をあげる。エウフェミアは振り返る。


 青い髪の青年は仮面越しでも分かるほど、食い入るようにこちらを見つめている。


「ガラノス家の?」

「いいえ。今はもう――」


 そこまで答えて、エウフェミアは口を閉ざす。今になってようやく、おかしなことに気づいたからだ。


(そういえば、イェレミアス様はどうして本当の青をご存知なのかしら)


 ケントが本当の赤を知っているのはビオン・エリュトロスと交流があるから。それを目の前の青年に当てはめると――。


 そんなことを考えている間に、イェレミアスは手を伸ばしてきた。右手首と顎を捕らえられる。これでは逃げることさえできない。


 彼はこちらの顔を観察するように見つめる。明るい部屋で、顔を近づけたことでエウフェミアは気づく。――イェレミアスは綺麗な赤い瞳をしている。


「エウフェミア」


 そして、青年は何かに気づいたように嬉しそうな声をあげる。


「ずっと、会いたかった」


 そう言って、彼はエウフェミアの体を引き寄せ、強く抱きしめた。


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