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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
四章 新たな精霊術師

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6 七家の成り立ち


「さて、ダフネ。七家の成り立ちについて暗唱しろ」


 それまで、父親を睨んでいたダフネだが、その言葉に背筋を伸ばす。そして、少し嫌々そうながらも、諳んじ始めた。


「『世界は創造され、精霊と人が生まれた。しかし、長く二者は交わることはなかった』」


 以前、シリルが『精霊術に関する知識の多くは精霊貴族の方々が口伝するのみ』と言っていたことを思い出す。こうやって、七家は精霊に関する知識を伝承し続けてきたのだろう。


「『精霊は世界を守り、人々は争いを始めた。何十、何百という時が流れた。血が流れることは止まることなく、世界中で戦いが続いた。終わりは見えず、戦が終わるより人が終わるのが先かと思われた。それを嘆かれたのが生命の精霊(プシュケー)。彼は人を憐れみ、人に手を貸すことを決めた。大精霊たちに七人の人間を選ばせ、その人間に色と石を与えた。それが七家の始まりである』」


 そこまで暗唱すると、ダフネは言葉を区切った。


「これでいい?」


 質問に父親は答えず、代わりに兄が「すごいすごい!」と笑顔で拍手する。


 エウフェミアは瞬きを繰り返す。


 今ダフネがした話は自身が知っている七家の始まりとは異なる。


「……あの、七家を選んだのは、皇帝陛下のご先祖様だと精霊庁の資料で読んだのですが……」


 ――人々の統治を成し遂げた皇帝の祖は、次に自然の統治を望んだ。そして、人民の中から七つの一族を選び、大精霊たちに七つの一族への恩寵を願った。それが精霊術師、精霊貴族の始まりである。


 確か、それが精霊庁の資料室にあった教本に書かれていた精霊貴族の始まりだ。だが、今の話にはそれらしい人物は出てきていない。


 おそるおそる訊ねると、アレキウスが投げやりに答えた。


「ああ。知識階級の奴らはそう信じてるらしいな。でも、それは帝国の作り話だよ。帝国より精霊術師の誕生が先だ」


 その言葉にエウフェミアは困り果ててしまう。


(どちらが正しいのかしら)


 エウフェミアとしては先代キトゥリノ精霊爵の言葉は信じたい。しかし、帝国のために働く精霊庁の人々が嘘を教えられているというのも信じたくない。


 ひとまず、エウフェミアは最後まで話を聞くことを決める。それまでは、どちらが真実と信じるかを保留にしてもいいだろう。


 アレキウスは顎の無精髭を搔く。


「あー。で、大精霊が与えた色って言うのが恩寵で、石をっていうのが精霊石――つまりは精霊術だな。そんで、生命の精霊(プシュケー)は適当な男を選んで、七人の精霊術師に味方するように言った。その男が皇帝の先祖だ」


 エウフェミアは瞬きを繰り返す。


 先ほど彼は『帝国より精霊術師の誕生が先』と言った。だが、そもそも、今の説明が正しければ、皇帝がいたから精霊貴族が生まれたのではなく、精霊術師がいたからこそ、皇帝が生まれたことになるのではないか。


 そのことに気づいたことを察したのだろう。先代キトゥリノ精霊爵は「そう。逆なんだよ」と頷く。


「遥か大昔、世界が生まれ、人間も生まれた。そんでもって、人間はある程度知恵を働かせられるようになると、争いを始めたんだ。最初は小競り合いレベルだったのが、どんどん拡大してった。最終的には世界中が戦争(センソー)だらけになった。そして、大勢の命が失われたんだ」

「……それが、『終わりは見えず、戦が終わるより人が終わるのが先かと思われた』ということですか?」

「そうそう。よく覚えられたね」


 アレキウスはまるで子供を褒めるかのように大仰に手をたたく。


「それまで、精霊と人の世界は別々だった。人がいくら死んでも精霊たちには関係ない。だけど、生命の精霊(プシュケー)は自滅の道に進もうとしている人間に慈悲をくださった。このままじゃ人間は滅ぶってね。そして、人間の世界に介入することを決めたんだ。大精霊たちの名代として精霊術師を選ばせ、精霊たちへの信仰を持った小国の王子を人の世界の王まで()し上げようと決めたんだ。――ああ。ちなみに昔は国がいっぱいあって、その国同士で戦ってたんだぜ。今じゃ信じられないよな」


 先ほどまで真実の判断を保留しようとしていたエウフェミアだったが、先代キトゥリノ精霊爵の話を聞いているうちに、彼の話が本当のことではないかという考えに傾いてくる。それだけ伝承の内容が具体的なのだ。


「七人の精霊術師の協力を得た男は無事、世界を統一した。だが、そこまでに失われた命の数が多すぎた。人だけじゃなくて、精霊もな。長い争いは世界をも傷つける。人の怨念や憎悪という悪感情が積み重なると、その場所の精霊たちは死んでしまう。だから、生命の精霊(プシュケー)が手を貸したのは人のためじゃなくて、精霊や世界のためだったなんてことを言うヤツもいる。……精霊や世界のためだけを考えるなら、人間ごと滅ぼしてしまったほうがよかった――オレはそう思うけどね」


 そこまで言うと、アレキウスは疲れたように背もたれに寄り掛かった。


「ダフネ。続きから説明してやれ」


 突然バトンタッチを言い渡された娘は目を見開く。それからつっかえながら話し出す。


「ええと――このままじゃ、世界が滅ぶと心配した生命の精霊(プシュケー)様はご自身の力をすべて使い、傷ついた世界を癒しました。そうして、生命の精霊(プシュケー)様はご自身の力を取り戻すために深い眠りにつき、世界と精霊と人を七人の大精霊様に託しました」


 それは伝承の暗唱でも、ダフネの言葉でもなく、教わった説明なのだろう。先ほどよりもその説明はかなりたどたどしかった。


 その話を聞いて、エウフェミアの知る話と伝承にそもそもの食い違いが存在することに気づく。


生命の精霊(プシュケー)様が眠りにつかれたのは、帝国が出来てからなの? 『創世記』だと、創世から間もない頃と書かれていたけれど」


 世界が創られ、多くの命が生まれた。そのときに生命の精霊(プシュケー)は力を使い果たし、眠りについたと本には描かれていた。そして、それを読んだのはまだ両親が健在の頃だ。


 ダフネは頷く。


「うん。私も『創世記』の絵本は読んだことあるわ。でも、あの本に書いてあることは全部本当のことじゃないのよ」

「なぜ、精霊術師の子供が精霊術に触れるのが十歳からだと思う? 精霊術を上手く扱えないってのもあるが、精霊術師の常識を世界の常識と思わせないため。秘密を守れるようになるのを待つ意味合いもあるけどね。十歳になるまでに触れられる情報は一般的に知られているものだけだ。あの本に書いてあるのは、世間が真実だと思っていることだよ」


 アキレウスが補足するように言う。


 ――あの絵本と伝承に齟齬が合ってもおかしくないということか。


 エウフェミアは本当に自分が何も知らないのだと打ちひしがれる。


「……つまり、七家が生まれたのは生命の精霊(プシュケー)様のご意志であって、皇帝陛下は関係がない。むしろ、皇帝陛下を選んだのも生命の精霊(プシュケー)様。そして、生命の精霊(プシュケー)様が眠りについたのは創世の時代ではなく、四千年前だった――ということですか?」

「そうそう、そういうこと」


 アレキウスは上機嫌に笑う。その様子を見ながら、エウフェミアは戸惑っていた。


 彼とダフネのおかげで精霊貴族に伝わる七家の成り立ちは理解できた。しかし、そもそも、彼が教えてくれると言ったのは誓約についてだ。まだ、まったくその話が出ていない。


 それを察したのか、アレキウスは「で、ここからが本題だ」と切り出した。


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