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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
三章 水と風

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24 銷却方法


 翌朝、エウフェミアはノエと一緒に離れを出発した。向かう先は昨日話をした沢だ。


 どうやら、昨日、ノエはそこで銷却のための準備をしていたらしい。エウフェミアの後から空虚の根(アニパルクシア)近くに姿を現したのは、そちらへ向かうエウフェミアの姿を見かけて追いかけてきてくれたそうだ。


 もし、彼がいなかったらと思うと恐ろしい。その話を聞いて、改めて「追いかけてきてありがとう」とお礼を伝えた。


 沢につくと、ノエは追加で持ってきたトランクを下ろす。その息はゼエゼエと完全にあがっている。


「大丈夫? 無理しなくても、私も運んだのに……」


 出発時、エウフェミアは代わりに荷物を持つと提案したが、ノエは「レディにこんな力仕事をお願いするわけにはいかないよ」と断固拒否された。


 しかし、その華奢な少年にグレッグやジェシーのような腕力や体力はないようで、途中から息絶え絶えになっていた。そこからも何度かトランクを代わりに持つと言ったのだが、彼の答えは変わらなかった。


 ノエは深呼吸を繰り返し、息を整える。それから、余裕のある態度を見せてくる。


「これくらい、大人の紳士(ジェントルマン)としてできて当然さ」


 しかし、その額には汗が残っている。エウフェミアは気づかれないように笑みをこらえると、持ってきた水筒を手渡した。


 中身は水出しのハーブティーだ。ノエはそれを美味しそうに飲む。


「うん。エウフェミアの淹れるお茶は本当に美味しいね」


 彼は上機嫌に笑う。少し休憩をし、それからノエはこれからのことを説明を始めた。


「じゃあ、改めて空虚の根(アニパルクシア)の銷却方法について説明するよ。ちょっと図にするね」


 そう言って、彼は持ってきた紙に黒い丸を書く。そして、その黒円を中心に大きく円を描いた。


空虚の根(アニパルクシア)がある場所はこの黒い丸だ。ここを中心に、周囲は特殊な空間に変わり果てている。この外側の円の中がそういった場所だよ。まず、そもそも空虚の根(アニパルクシア)が発生する原理なんだけど――昔、ここが水源地だったって話は覚えてる?」

「ええ」


 シリルがノエに説明をしていたのを思い出す。


空虚の根(アニパルクシア)が発生するのは元々精霊たちがたくさんいたところだ。以前は水の精霊が集まるような場所だった。でも、何かのキッカケで水の精霊が減っていったんだ。水源どころか、この場所を維持できなくなるほど精霊たちがいなくなると、それが空虚の根(アニパルクシア)になる」


 ノエは円の内側から外側に向けて矢印を描く。そして、黒丸の上にバツをした。


空虚の根(アニパルクシア)は少しずつ周囲へと悪影響を広げていく。そうして、誰も近づけない空間が生まれるんだ」

「……そうやって、空虚の根(アニパルクシア)が作られるのね」


 空虚の根(アニパルクシア)の発生方法は分かった。あとは、肝心の銷却方法だ。


 ノエは書いた図を指差す。


「それで、空虚の根(アニパルクシア)を銷却させる方法なんだけど――簡単に言うと、逆のことをすればいいんだ。要は水の精霊たちを連れ戻すんだ。大量にね」


 そう言って、彼は円の外側から、中心の黒丸に向かって紙をなぞる。


 その言い方も、動作もまるで簡単なことのように思える。しかし、疑問を抱いたエウフェミアはそれをぶつける。


「…………それって、簡単なことなの?」

「正当な当主ならね。水の大精霊(ネロ)様のお力を借りれば、精霊たちを強制的に空虚の根(アニパルクシア)へ呼ぶことができる」


 その説明で、なぜ空虚の根(アニパルクシア)の銷却が精霊貴族当主に任されるかを理解する。


大精霊の紋章(エンヴリマ)を持たない精霊術師の場合はどうなるの?」

「…………さてね。今まで、空虚の根(アニパルクシア)の銷却を為した大精霊の紋章(エンヴリマ)を持たない精霊術師はいない。前例がないんだよ」


 ――では、ノエは前例がないことを為そうとしているのか。 


 エウフェミアは黙り込む。しかし、そんな困難を目の前にしているはずのノエの瞳からは強い意志と自信を感じた。


 少年はハッキリと宣言する。


「だから、僕がその一例目になる。簡単なことではないけどさ。僕にだって、考えがないわけじゃない」


 そう言って、彼が手を伸ばしたのは霊水が入っているという瓶だ。それを目の前に置く。


「これはガラノス家当主の住むオリスト湖の水底から汲んできたものだ。全部で千個用意してきた」

「――千」


 膨大な数にエウフェミアは絶句する。同時にノエの持ち込んだトランクの多さとその重さに納得する。あれらには全て霊水入りの瓶が詰められているのだ。


 ノエは再び紙に何かを書き込んでいく。それは一本の線だ。円の外側に一本引かれる。


「この霊水自体にも水の精霊が宿ってるけど、この瓶を一万本用意したって空虚の根(アニパルクシア)は消せやしない。だから、もっと水の精霊たちがいるところ――川と空虚の根(アニパルクシア)までをつなぐ橋をかける必要があるんだ。水の精霊たちが渡るためのね。この霊水入りの瓶が彼らにとっての橋さ。僕らは皆が無事に渡れるようにしっかりした橋を作らないといけないんだ」


 その線は川を示していたのだろう。その線と空虚の根(アニパルクシア)を表す黒丸をつなぐように、ノエはもう一本線を引いた。


 ――川から水の精霊たちを呼び込む。そのために霊水を使う。


 そのことはエウフェミアにも理解できた。橋を作るというのも比喩表現だというのは分かる。しかし、具体的にどうするのかはさっぱり分からない。


「ええと、その、橋を作るというのは……何をすればいいのかしら」


 困りながら問うと、それまで真剣な表情をしていたノエはどこかバツの悪そうな顔をする。


「この瓶が空虚の根(アニパルクシア)の悪影響を受けないように加護をかけるんだ。人間相手には無理だけど、僕にもそれくらいはできる。そして、それをこの川から空虚の根(アニパルクシア)まで等間隔に置いていく。それで橋の完成さ。霊水を辿っていくことで水の精霊たちは迷うことなく、空虚の根(アニパルクシア)を目指すことができる」

「霊水は目印なのね」

「うん、そう」


 理解できたことが嬉しくて笑みがこぼれる。しかし、ノエはどことなく浮かない顔だ。エウフェミアは不思議に思う。


 ノエはぼそりと呟く。


「でも、橋を作っても、実際に精霊たちが渡ってくれないと意味がない。精霊たちは空虚の根(アニパルクシア)に近づくのを嫌がる。彼らにとっても『無』は天敵だから。それをどうにか渡らせる方法を考えないといけない」


 その説明で、ノエの計画には穴があることを知る。――しかし。


「でも、それも君がいればそれも解決できるかもしれない」


 少し不安そうながらも、少年は覚悟を決めたように解決方法を説明してくれた。


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