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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
六章 生命の目覚めと裁きの炎

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16 火の精霊の声


 エウフェミアたちは精霊庁の会議室へと移動する。お茶とお菓子を用意してもらい、早速本題に入る。


「まず俺が一人で現場を見に行った。確かに火の精霊の気配が濃かった。――火事が起きたから当然なんだけど」


 湖の近くの工房には、今もなお火災の痕が色濃く残っていたらしい。


「それと、精霊たちが落ち着いていないようだった。でも、俺に分かるのはそれだけだ。事件から大分経っているし。それで、ダフネの力も借りようと思ったんだ」


 ナイセルの一件後、エウフェミアたちはいざというときの連絡手段を交換していた。それでビオンは自分の判断でキトゥリノ家へ連絡を取ってくれていた。


 そして、先ほどの話通り、ダフネがやってきてくれた。――そして、彼女は口を開いた。


「……火の精霊の声が聞こえたの。――『イグナティオスが怒っている』って」


 その言葉を聞いた瞬間、視界が歪んだような気がした。口の中が渇く。エウフェミアはその名を復唱する。


「――イグナティオス?」

「そう。ビオンと一緒に事件のときのことを話していたときよ。火事の現場に残っていた火の精霊が言っていたの」


 ダフネは詳しく話してくれたが、その内容はほとんど頭に入らなかった。苦い表情でビオンが呟く。


「これでイグナティオスの生存と、彼がエウフェミアを襲った犯人ってことは裏付けられたと思う」


 それを誰も否定できなかった。エウフェミアは目を伏せる。


 イグナティオス。エウフェミアの家族を殺した犯人。大罪を犯したレオニダスの息子。


 エウフェミアは彼のことをほとんど知らない。同情させるべき育ちをしたということだ。だからこそ、そんな凶行に走ったのには何か事情があるのではないか。そう思いたかった。


 しかし、イグナティオスが自分を襲おうとした。そして、彼が怒りの感情を抱いている。イグナティオスが自分に害意を向けている――その事実を突きつけられたようで、少し恐ろしく感じた。




 ◆




 この調査結果についてはエリュトロス精霊爵へも伝えられた。


 報告を聞いた精霊爵が一人、皇宮にやってくる。応接室に入ってきた彼の表情は青ざめたものだった。


「――左の眼(アリステラ)の報告は確かなものなのか」


 役目を終えたダフネは一度『黄の塔』へと帰っている。応接室にいるのはエウフェミアとビオンだけだ。


「ああ。俺もその場に居合わせている」


 息子の言葉に、エリュトロス精霊爵は手で顔を覆う。信じられない、といった様子だ。


 その反応をエウフェミアは怪訝に思う。


「イグナティオスの生存の可能性を先におっしゃったのはエリュトロス精霊爵でしたでしょう? そう驚くことではないのではありませんか?」


 エウフェミアの問いに精霊爵は答えなかった。苦悩に満ちた表情で、ソファに腰を下ろす。エウフェミアは質問を重ねた。


「精霊爵。イグナティオスはどういう人……いえ、どういう子だったのですか?」


 エリュトロス精霊爵は顔をあげる。それから、ゆっくりと口を開いた。


「……分からない」


 それは不安に揺れた声色だった。


「分からないんだ。あの子は、いつも従順だった。だが、何を考え、何を思っていたのか……私は、知ろうともしなかった」


 その答えに、エウフェミアは思わず眉をひそめる。


 精霊爵のイグナティオスへの接し方は褒められたものではない。しかし、それを今糾弾しても意味はないだろう。


 エウフェミアは作り笑いを浮かべ、話を進める。


「エリュトロス精霊爵。こうしてイグナティオスの生存が明らかになった今、八年前の取り決めは意味をなさないと思われませんか? イグナティオスを“いなかったこと”にできたのは、彼が死んだと考えられていたからです。――でも、生きている人間を、いなかったことにはできません」

「…………そうだ。そうだな」


 精霊爵は力なく肯定する。エウフェミアは慎重に口を開く。


「つきましては、イグナティオスの存在を公にいたしませんか?」

「なっ――!!」


 その提案にゲオルギオスは勢いよく立ち上がる。先ほどまで真っ青だった顔が今では真っ赤に染まっている。


「そんなことをすれば、何が起こるか分かっているのか――!!」

「そうですね。そうですね。帝国全体への影響を考えれば、今はまだ皇宮への報告を控えるべきです。まずは七家全体に、この事実を明かしましょう。そもそも、七家の人間は最初からイグナティオスのことを知る権利があったはずです」

「……誓約がある。エリュトロス家の問題だ。他家には関係がない」

「イグナティオスがガラノス家の人間を殺している以上、エリュトロス家の問題ではおさまりません。少なくともガラノス家は当事者です」


 精霊爵は黙り込む。それから、深く息を吐いた。


「……これは七家の当主で決めたことだ。私一人の独断では覆せない」


 それは、予想の範囲内の返答だった。


「それでは、他の当主の方々の意見も聞きましょう」


 エウフェミアは笑みを浮かべる。


「ひと月後の精霊会議。その場で改めてイグナティオスについて話し合い、その処遇を決めましょう。――彼が本当に利己的な理由で、ガラノス家当主とその跡継ぎ、そして、左の眼(デクシア)を殺したのであればそれは大罪でしょう。火の大精霊(フォティア)より与えられた恩寵を剥奪すべきです」


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