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【本編完結】精霊術師になれなかった令嬢は、商人に拾われて真の力に目覚めます  作者: 彩賀侑季
五章 眠れる炎の再生

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25 キトゥリノ兄妹との再会


 それぞれが自分の役割を果たすためにモロニー駅を出発する。そんな中、エウフェミアは一人だけ駅の宿泊施設に残ることとなった。


(私もグレッグさんについていったほうがよかったかしら)


 自室の机に座り、アーネストが置いていったボードゲームを見ながらぼんやりと考える。


 エウフェミアの仕事はニキアスとダフネに手紙を書き、彼らの協力を得ること。昨日、早朝のうちに手紙を書き終え、グレッグが届けに行った。今はその帰りを待っているわけだが、正直やることがなく手持ち無沙汰だ。


(手紙の返事が来るまでに何かやれることはないかしら)


 窓が勢いよく開いたのはそんなことを考えてるときだった。突風が室内に吹き込み、荷物が飛ぶ。突然のことに反応できずにいると、窓の外から人影が現れる。


「やあ! 久しぶりだね!」


 明るく挨拶をしてきたのはニキアスであった。彼は当たり前のように窓から部屋の中に入ってくる。


「キ、キトゥリノ精霊爵」


 窓から現れたことにもだが、返事を送ってくるのではなく、直接現れたことに驚く。しかし、ここまで足を運んでくれたということは協力の意思の表れのはずだ。礼節を欠いてはならないと、慌てて立ち上がる。


「ご無沙汰しております。この度は、わざわざご足労いただきまして、ありがとうございます。心から――」

「あ! また、面白そうなものを持ってるね!」


 ニキアスは机に置かれたボードゲームに駆け寄る。興味深そうに駒を持ち上げる。


「これは何? オモチャか何か?」

「……ボードゲームです。二人の参加者が駒を使って陣地を取り合う遊びですよ」


 いい加減エウフェミアもニキアスの性格には慣れてきた。笑顔を作り、質問に答える。ニキアスはパアッと表情を明るくする。


「へえ! 面白そうだね! どうやって遊ぶのかな?」

「ええと、それはですね」


 エウフェミアは二日前の記憶を思い出しながら説明をする。


 複雑なゲームルールだ。すべてを正しく伝えられるか不安だったのが、その心配は杞憂だった。ルールを四つほど説明し終えた段階で、既にニキアスは興味を失ったようにつまらなそうな顔をし出したからだ。


「なんだかすごく決め事があるんだね。ボクには覚えられそうにないや」


 そう言って、彼は椅子に座る。それから、首を捻り出す。


「それで……それで、何だっけ? 君の手紙の内容忘れちゃった。ボクに用があるんだっけ? それとも」

「――兄さん!!」


 今度はノックもなく、入口の扉が開く。そちらを見ると、そこには小柄な金髪の少女とその後ろにトランクを持つグレッグの姿があった。


「何でそうやって勝手に飛んでいくの!」


 ダフネはつかつかと兄に近づくと、腰に腕を当てて仁王立ちする。


「だって、こっちのが早いじゃないか」

「よその家や他の人の部屋に窓から入るのは失礼なことだっていつも言ってるでしょ!」

「ダフネが気にしすぎなんだよ。――ね? 別に気にしないよね?」


 同意を求めれ、エウフェミアは曖昧な笑みを返す。それを見て、ニキアスは「ほら!」と妹に訴える。


「彼女も怒ってないじゃないか!」

「それは兄さんに気を遣ってくれてるだけよ! ――ああ、もう! 無理やりでも兄さんを置いてくればよかったわ!」


 そう叫んで、ダフネはその場にうずくまる。エウフェミアもその隣に屈み、フォローの言葉をかける。


「ダフネ様。本当に私は気にしていませんから、大丈夫ですよ。それより、来てくださったということは、ご協力いただける――ということでよろしいのですよね?」

「え、ええ」


 本題を思い出してくれたのか、ダフネはこちらを振り返ってくれる。エウフェミアは微笑む。


「ご足労いただき、ありがとうございます。長旅でお疲れでしょう? まずはお茶でも淹れて、休憩にしましょう」




 ◆




(これなら、昨日のうちにお菓子を作っておけばよかったわ)


 そんなことを思いながら、エウフェミアは紅茶を淹れる。茶菓子は従業員に用意してもらった焼き菓子だ。


 ダフネは砂糖とミルクをたっぷり淹れた紅茶をゆっくりと味わっている。その隣でニキアスは焼き菓子をほおばる。


 少し落ち着いたところで、エウフェミアは話を切り出す。


「それでですね、ご連絡をした理由なのですが――」


 手紙ではおおまかな事情しか伝えられていない。エウフェミアは『黄の塔』で別れた後のことを説明していく。


 エリュトロス精霊爵に会えたこと。家族の死の真相を知るためにはナイセルの問題を解決しないといけないこと。現状、原因は水の精霊により、地下の溶岩の川に悪影響が及んでいるのではないか。そして、その推測が正しいことを確認するため、原因となる地点を探すために精霊の眼(オプタルモス)であるダフネに協力してほしいこと。


 いくらダフネが聡明であっても、まだ十歳の少女だ。できるだけ丁寧に分かりやすい説明を心がける。


 一通り、説明を聞き終えたダフネは「分かったわ」と答えてから、少し困ったような顔をする。


「……ううん、説明でよく分からない部分もあったけど。でも、その地面の下の溶岩の川というのを視ればいいんでしょう? 精霊の眼(オプタルモス)として、あなたに協力するわ」

「ありがとうございます」


 直接本人から協力の言葉を引き出せたことにエウフェミアは安堵し、笑みをこぼす。


 そうして、エウフェミアはニキアスたちを連れて、ナイセルの南側へと出発する。ダフネが地底を調べるには時間がかかると思っていたが、ニキアスが彼女を抱いて空から調査をすることで該当の場所は早くに見つけられた。


 そこは緑の少ない荒野の一角だった。ダフネは真っ直ぐに地面を指さす。


「ここ。この地底に水の精霊が集まってる場所がある。そのせいで火の精霊たちの動きがおかしくなってる」


 彼女の言葉には迷いがない。本当に精霊の眼(オプタルモス)には地下の深くまで見通す能力が備わっているのだ。


「多分、本当は北に流れていきたいのかしら。ここの水の精霊たちをどうにかすれば、あの山まで火の精霊たちが迎えるんじゃないのかしら」


 ダフネは指先をナイセルの山へと向ける。それを聞いて、エウフェミアは思う。


 ――やっと、ここまで来た。


 皆の力を借りて、ナイセルから火の精霊が失われた原因を突き止めた。あとはその原因を取り除き、元に戻すことだ。


 エウフェミアは笑う。


「ダフネ様、ありがとうございます。これでエリュトロス精霊爵から八年前のことを教えていただけそうです」


 まだ具体的に決めていくことは残っているが、光明は見えた。振り返ったダフネはどこか不安そうにこちらを見上げる。それから、意を決したように口を開いた。


「エウフェミア」


 名前を呼ばれ、エウフェミアは瞬きをする。そういえば、ダフネに名前を呼ばれたのは初めてだ。


 まだ幼い金髪の少女はスカートをギュッと握る。


「あの、私も兄さんに聞いたの。――八年前のこと」

 

 それは衝撃的な告白であったが、すぐに当然のことだと納得できた。ニキアスや彼らの父アキレウスがエウフェミアに真実を語るのを嫌がったのは七家の『誓約』によるものだ。左の眼(アリステラ)には関係がない。


「その、だから、エリュトロス精霊爵の出した試練を解決しなくても、私が左の眼(アリステラ)として、あなたが知りたいことを答えることができるの。……だから」

「ダフネ様」


 エウフェミアは少女の言葉を遮る。彼女と視線を合わせるように屈む。そして、力強く宣言した。


「お気遣いありがとうございます。……ですが、大丈夫です。私はナイセルは元に戻してみせます」


 家族の死の真相を知る。それだけのためなら、ダフネから話を聞けばいい。しかし、それだけではいけない。今はそう思うのだ。


 エリュトロス精霊爵のこと。ビオンのこと。ブロックハート侯爵領のこと。


 ナイセルを元に戻せばすべてが解決する。そういうことではないかもしれない。しかし、目の前の問題を投げ出せば今抱えている他のすべての問題さえも投げ出すことになる。そんなことはしたくない。


「そのためには私一人の力では足りません。もう少しだけ、お手伝いをしてもらえませんか?」


 そう微笑むと、ダフネは「うん」とどこか嬉しそうに笑い返してくれた。



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