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第七話 デカ過ぎんだろ…。


「デカ過ぎんだろ…」


 グリーフのつぶやきに、頷く。


 ここからの距離を加味すると、私を食おうとしたサイクロプスよりも大きいかもしれない。

 あの魔女のことだ、一瞬とは言え、私を絶望させた褒美として、彼を大きく設計し直したのか……愚かな女だ。


 あれほど巨大なら、協力し合わないなどという選択肢はない。私たちは、サイクロプスとの戦闘を通じて、再び完璧な群れになれる。実物を見ることによって、よりその確信を強く持つことができた。


「ざ、雑魚森班、僕に着いてこい! 他の班も、臨時指揮官の指示通りに進め! 止まるんじゃねぇぞ…」


 サイックスの号令に我に返り、私たちは五つの班に別れて動き出した。正直後ろ髪を引かれるが、再度合流してサイクロプスと戦えると思えば我慢もできる。


 目的地は、第五層の北に位置する、通称『雑魚森』。魔物の数の多さを考慮しても、第五層の中では圧倒的に楽で、”稼げる”エリアだ。強いて問題をあげるなら、サイクロプスを避けるため回り込まないといけないので、それなりに走らないといけないことか。


「おっと、きやがったぜ」


 しかし、冒険者になる上で一番大事なのは持久力、と普段から口すっぱく言われてきたおかげで、『雑魚森』までたいした体力の消費も無しにたどり着いたことに成長を実感していると、息すら切らしていないグリーフがこう言った。


 グリーフの言葉に顔を上げると、“雑魚森”から、大量のスライムがぴょんぴょんと私たち目掛けて進軍してきているのが見えた。 

 しかし、雑魚森班が二十隊に対し、あちらは二十匹。単純な戦力差は三倍な上に、魔女に命じられたままに、愚直に人間を襲うだけのただの烏合の衆である彼らが、私たちに敵うはずもない。


 数の力は、群れの力には敵わない。勇ましい大群に所属して、より深く理解(わか)らせられたことだ。


「トム、バフの必要はないからね」

「いやいや、掛けさせて! ただでさえサポーター不要論で病みに病んでるんだから! ほら見てリスカの痕! かわいそうじゃない? ねぇ、心配した? 心配したでしょ?」

「ああ、うん」


 前腕にはしる傷跡をなぜか自慢げに見せるトム。確かそれはゴブリンにやられたものだった気がするけど、まあ、どちらだっていいだろう。


 「もう、もっと心配してよ!」とトムに背中を叩かれると、身体に力が漲るのを感じた。


 ……不要なはずがない。私は魔力無しのフリをしているし、何より魔法を使えば抑えた魔力を出してしまう。そんな私でも身体能力強化の魔法を他人にかける魔法、通称バフのおかげで、魔物相手に力勝負できるのだ。不要であるはずがない。


 私はグリーフの背後にピタリとくっついて、というより、泣き叫ぶグリーフを押しながら、一匹のスライムめがけて走った。


「ったく、俺を盾に使うんだから、一発で仕留めてくれよ!」


 グリーフは、スライムの体当たりを軽々と盾で受け止めた。そのままくるりと体を回転させ、スライムを押し払う。

 大きく後ろに飛んだスライムに、抜刀しながら距離を詰めると、スライムの核を斬りつけた。


「くぎゅう!……」


 スライムは、身体をドロドロと溶かして死んだ。死骸は、じゅぅと熱された水のように黒い蒸気になって消え去る。代わりに、毒々しい見た目の果実が地面に転がった。


「チッ、当たりかよぉ。ニックお前、相変わらず運がいいな」

「あ、うん。ありがとう」

「褒めてないぜ。ったく、頼むから、倒した魔物じゃなくって、ドロップアイテムの値段で評価を決めて欲しいもんだ」

「いやいや、そうなってきたら、連続で外れアイテムとか出たときにめっちゃストレスかかるくない?」


 トムがそういうと、グリーフはフッと大人びた笑みを浮かべる。


「お前はバカだな そのストレスからの大当たりで、より脳汁がドバドバ出るんだろうが」

「……グリーフ、お願いだからギャンブルだけはやらないでね?」

「やらねぇよ、そんなコスパの悪いもん。やるなら投資だな。今の時代、自分で働くんじゃなくって金に働かせるんだよ」

「ふ、ふーん、グリーフ、賢いもんね。どんな投資?」

「ああ、よく走りそうな馬に投資して、その馬が一等を取ったら俺の元に何倍にもなって還元されるって投資だ」

「ギャンブルだ!!」

「おかげで借金が重なってよ…それじゃあ俺は、このドロップアイテムを第四層に退却するという重大な仕事をしてくるわ。万が一魔物に食われようもんなら大変だ」

「絶対にくすねて売るつもりでしょ! 魔物はドロップアイテムには手を出さないから大丈夫だよ!」


 ドロップアイテム。


 ダンジョンに棲息する魔物を倒すと、どこからか現れるアイテム。どこでも取れる薬草なこともあれば、一部の南国でしか取れない美容効果のある果実だったりもする。

 その中でも目玉なのは、は魔女の道具、略して“魔道具”と名付けられたドロップアイテム。このダンジョンでしか手にできない、魔力を込めることによって魔法が発動するアイテムである。


 市場では、物にもよるが、大抵高額で取引される。ちなみにグリーフが今使っている盾も魔道具だ。盾に魔力を込めることによって、魔力の壁を作り出す……サイクロプスの拳を受け止めた魔力の壁も、あれで作り出していたわけだ。


 私としては、人間が魔道具に頼ってしまっている現状は良くないと思う。個人的な感情もあるけど、あの魔女の狙いがあまりに明白だからだ。


 現に、あの魔女の狙いは成功している。ダンジョンに潜り、そこで手に入れたドロップアイテムを売る、通称”ダンジョン潜行型パーティ”は日々増加傾向にある。一財を気づけると夢を見た若者がダンジョンにやってきて、魔物に殺され、最下層に送り届けられる。


 ドロップアイテムは、人間をおびき寄せる餌なのだ。


 ……ともかく、そういう事情があるので、森に火をつければ簡単に魔物は焼き殺せるところを、ドロップアイテムを確保するため、丁寧に一匹一匹狩っていかなければならないと言うわけだ。もちろん、皆で戦いたい私としては大歓迎である。


 私たちは逃げようとするグリーフを引きずりながら、”雑魚森”に入ったのだった。


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