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第五話 サイクロプスとの再会。

 

「……の真反対だなぁ! サイクロプスとか!! 目が一つなくせに、ツノが二本でアンバランスなところとか嫌だ!!」

 

 慌てて言い訳をすると、隊員の一人から、「いや、誰もサイクロプスを美的センスの観点から嫌がってるわけじゃないんだよ! お前、頭の中まで空っぽなのか!」とツッコミが飛び、失笑が起こる。自分の演説を邪魔されるのが嫌いなサイックスは、ギロリと私を睨んだ。


「ニック、無能らしく黙ってろ!……皆の衆、何も恐れることはない! 今、サイクロプスは第五層の大麦畑で昼寝をしている! 過去の対戦記録では、サイクロプスの眠りは非常に深く、他の魔物たちが殲滅されるまで起きなかったという記録もある! さらに、サイクロプスが出現しているということは、ホフゴブリンの群れや眠り猫はいないということ! より楽に第五層を攻略できると見ていい! 予定通り五つの大隊に分かれて、まずは雑魚魔物から殲滅していく! なるべく魔力は温存してくれ! それから我々全員で巨大魔物専用隊列を組み、サイクロプスと戦う!」


 サイックスに対する罵倒はさらに激しくなった。いつものサイックスなら、『もういい帰る!!』と他のフィールドに行って、私たちが謝りに来るのを待つところなのだが、なぜか私の方を見て、ニヤリと嫌味に笑った。


「三年前のサイクロプスとの戦闘を経験してないやつは、ぜひともニックに聞いてあげてくれ! サイクロプスに不味そうだと思われて放り出される方法を教えてくれるぞぉ! ま、と言っても、ゴブリンですら持っている魔力を無くす方法なんてないだろうけどねぇ!」


 今度は、より大きな笑いが起こる。サイックスも満足そうだし、私もサイクロプスと戦えるのが嬉しくて仕方ないので、ここぞとばかりに笑っておいた。


 ダンジョンは、上層に配置された魔物ほど弱い。よって、私たちが潜る浅い階層では、サイクロプスほどの巨大な魔物は滅多にお目にかかれないので、あの日私を絶望の淵から掬い上げた巨大魔物専用の隊列を組む機会が、私が入団してから一度たりともなかったのだ。


 もちろん、他の戦闘隊形でも、俯瞰的に見れば、この二百二名の群れの仲間でダンジョンの魔物たちを相手取っていることには変わりなく、それはそれで非常にいいものだ。


 しかし、私に生きる希望を与えてくれたあの戦闘は、私の中で未だ輝きを失わない。その再現に参加できると思うと、ぶるりと体が震えた。


「それでは三分後、潜行を開始する! 整列しろ!!」


 サイックスの号令に従って、皆が文句を言いながらも動き出す。私も立ち上がったところで、コツンと頭を小突かれた。


「おい、ニック、お前何ニヤニヤしてんだよ」


 立ち上がると私の頭一つ背の高い身体を折り曲げて、グリーフが私の顔を覗き込んできた。私は慌てて口角を吊り下げる。


「あ、うん、その……ちょっと、思い出し笑いというか」

「思い出し笑い? この状況で思い出すことっていやぁ、冒険者でもないくせにダンジョンの五階層まで潜って、サイクロプスに襲われてボロ雑巾の魔人みたいになったことくらいだろ。それで笑ってるって、お前、とんだマゾヒストじゃないか……」

「あ、いや、違う違う。その、思い出して笑えるようなものを思い出して、笑ったというか」

「思い出し笑いをややこしく説明しただけだな……まあいい。そんなことより、俺の腹を思いっきり殴ってくれないか?」

「あ、うん、わかった」


 それだったら仲良くも見えないだろうし構わないと、私はグリーフの腹を思い切り殴った。ダンジョンに潜る上で重い鎧を装備するのは無茶な上、盾役(タンカー)のグリーフは巨大な盾を背負っているので、彼自身は隊服だけと軽装だ。

 私の拳はグリーフの腹にめり込み、グリーフは、カハッと空気を吐いて跪いた。


「ちょ、ちょっとニック!? なにしてんの!?」


 すると、私たちがついてきていないことに気がつき不振げにこちらを振り返っていたトムが、ピンク色のツインテールをぴょんぴょん揺らして私たちの元へと駆け寄ってくる。


「急にお腹を殴るなんて、ニックサディストなの!? だったらボクに言ってよ! ニックのためならボク頑張るから! ほら来い!!……ふっ……すっ……あぅぅって、もう! フェイントやめて!! 一思いに殴って!!」

「あ、いや……」


 マゾヒストを疑われた数秒後にサディストだと勘違いされると言う高低差のある展開に、どう返答すべきかわからない。この三年でだいたい会話のテンプレートは習得したつもりだったが、テンプレというのは案外役に立たないものだ。


 もごもごしていると、膝をガクガク震わせながら立ち上がったグリーフが、トムの肩を叩いた。


「いいんだ、俺が頼んだことだから。もうちょっと躊躇してくれたら嬉しかったんだけどな」

「はぁ!? 頼んだって、グリーフマゾだったの!? だったらボクに言ってよ! どっちでも対応できる……ああ、なるほど、そういうことね」


 トムは大きな瞳を下月状にしてため息をつく。


 グリーフは一度立ち上がったと言うのに、もう一度倒れ込んで、「あぁ…ふ…あぐっ…ぎっ…おぅっ」と、多種多様な吐息で演技力を見せつける。そして、ちらりとトムに視線をやった。


「ということで、隊長、腹筋が崩壊したみたいだから、俺は第四層で休んどくよ」


お読みいただきありがとうございます!


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