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第四十二話 雨宿り。

 

 メスガキ先輩が去った後、私たちはカイセド派とユルー派で話し合い、合同でダンジョン潜行班を組み直して、再びダンジョンを潜ることとなった。


 魔力の漏出を抑え、魔物との戦闘を避けながらダンジョンを潜行すれば、魔物をしらみつぶしに討伐しながらの普段の潜行と比べ、圧倒的に早く潜れるのは自明の理。私たちは、一日ほどで第五層へと辿りついたのだった。


 しかし、楽ができたかといえば、全くもってそんなことはなかった。

 ダンジョンの魔物は、野生の魔物のように五感が鋭くない分、魔力を感じとる第六感が異様に発達している。つまり、魔力さえ感知させず、奴らの五感の範囲内に入らなければ、襲われることはほぼないのだが、これがどうにも難しい。


 私も、体外に魔力を出さないよう操作できるのに、一ヶ月ほどの時間を有した。それも、魔法を使っていないとき限定の話だ。魔法を使えばどうしたって魔力が漏れるし、それはどの種族でも同じこと。逆に言えば、魔力の漏出を抑える一番の方法が、魔法を使わないことなのだ。


 よって私たちは、ここまで身体強化(バフ)無しで潜行しなくてはいけなかった。

 魔力無し(インポ)設定の私は普段からバフを使わないものの、トムにバフしてもらうこともあるのでなかなか辛かった。私以外のメンツはよりそうだろう。トムは不機嫌な顔を保てないほど疲れ果てているし、女性陣はスヤスヤと眠っている……いや、一番疲れているのはグリーフか。なにせ、ここに来るまでの避けようのない戦闘は、ほぼ彼が請け負ったのだから。


 その上、第五層の偽物の雲から雨が降り出したのだから、最低でも三時間の休息が必要だというグリーフの主張はもっともだった。


 しかし、このままではグリーフに主導権を握られかねないサイックスは嫌がるんじゃないか……そんな予想は、あっさりと裏切られた。


「グリーフさん、いい加減立ちっぱなしは良くないですよ。ささ、どうぞお座りください」


 私たちは、第五層の村跡地に建つ寂れた教会の鐘塔にいた。魔物を殲滅してもいないのに一つの場所に止まり休憩することは普段は推奨されないが、この雨でわざわざ塔を登って雨宿りしにくる魔物もいないだろう。私たち濡れて重くなった革製のアーマーと隊服を脱ぎ下着姿になって、魔道具でつけた火を囲んで暖を取っている。


 そんな中、サイックスはわざわざパンツまで脱いで、濡れた床に敷いてグリーフに座るよう促していたのだった。


 グリーフは「いやいや、いいって。ていうかお前、うん筋びっちりついてるじゃない。あれ以来肛門馬鹿になっちまったのか?」と呆れてから、眉根を下げてこう聞いた。


「提案した俺が言うのもなんだが、いいのか? ヌネス派とニーナ派が第六層にいるのなら、ここで休むのは悪手かもだぜ?」

「いやいや、グリーフさんの言うことに間違いなんてありませんよ。我々のことを忖度派閥なんてディスってますが、奴らの方がよっぽど冒険者としての実力ありませんから。確実に第四層で抜いたんですよ。入り口で待機されていた先輩の反応を見ても、我々が一番乗りなのは間違いないと思いますし! にしても、さすがグリーフさんですね!」


 サイックスはもう一度火を起こすつもりなのかと言うくらいの激しいもみ手をする。


「ここからなら、第五層の入り口が見えますもんね! ヌネス派かニーナ派が降りてくるのを確認もできます!」

「……だからって、お前らまでここにいる必要はないんだぜ? 寒いだろ」

「いやいや、万が一グリーフさんが魔物に襲われたら大変ですから!」


 サイックスの言う通り、第三層はともかく、第四層は迷路型なので、気づかぬうちにヌネス派とニーナ派を抜き去ってしまっている可能性は大いにある。この塔からなら、ヌネス派かニーナ派が第五層にやってきたのを確認できるのだ。


 グリーフは、彼らを確認したらすぐに彼らと合流し、カイセド派とユルー派が徒党を組んだことを伝え、これ以上潜行しなくても、ヌネス派とニーナ派の中で昇格二枠を分け合うことができると説得するつもりなのだ。


 もちろん、ヌネス派とニーナ派がそれで満足するかはわからないし、そもそも信じないかもしれない。私たちの言葉を鵜呑みにしてここに留まった結果、私たち以外のカイセド派やユルー派が、実はすでに第六層に潜っていたので昇格できませんでした、では、派閥長に顔向けできないだろう。


 しかし、同時に、ここに留まっていいという選択肢は、彼らに取ってあまりに甘美だろう。ここまで潜るまでもなく分かっていたところだが、どれほど魔物との戦闘を避けたところで、この程度の数の群れでダンジョンを潜るという行為は、普段数の力に守られている私たちにとって、非常にプレッシャーがかかる行為だ。もしかすると、魔法が使えない云々よりも激しく私たちを消費させたかも知れない。


 そこで、他の派閥であろうが同じパーティの仲間である私たちと合流できるとなれば、心が動いてしまうのが自然ではなかろうか……もし、今回の話し合いが成立したら、派閥間の溝を埋めるいいヒントになるかもしれない。


 と言っても、どのみち、雨がさらに強くなってきて、世界が斜線上になってしまった今、私の視力では入口を確認できないようになってしまったけれども。


 しかし、獣人の視力ならまだ視認できるのだろう。唯一、ユルー派から選ばれたブライトはと言うと、一人火元から離れて、塔の縁に座ってじっと外を眺めている。


 その背中には全くもって覇気が感じられず、逆上の心配はなさそうだ。それはそうだろう。あそこまで完膚なきまでやられたのだ、文句のつけようがないはずだ。


 ……しかし、大人し過ぎないか、という思考はすみにおいておく。今は、ブライトのことなんて気にしていられないのだ。


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