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第三十八話 推し戻り。


 ……ともかく、これで二対二になった。


 私が踵を返してグリーフたちのところへと向かった。異常事態にすっかり惚けていた三人に緊張感が走る。ブライトの「オビート、対応しろ!」との声とほぼ同時に、オビートが私目掛けて走り出した。


 私はすぐさま両手を挙げて降参の意を示す。オビートは、勃起した陰部を私の方に向けて臨戦態勢を取りつつも、殺意は見えない。やはり、話し合いが通じそうだ。


「君、魔物を犯すのが趣味なんだよね?」


 私がすかさず話しかけると、オビートは不審げに「ああ、そうだが? なんだ、決闘中に説教でもするつもりか?」と言った。


「いや、むしろいいと思うよ」


 私を犯してきた魔物が、人間に犯されている様は痛快だ。


「でも、魔物より人間を犯したほうがいいと思うんだ。常識的に考えてね」


 しかし、あの魔女が作った汚物のような存在ばかり犯していれば、変な病気になってしまうだろう。実際、彼の陰部は、トムの指摘の通り青い斑点みたいなものができてしまっている。


「そこで、俺からの提案なんだけど、魔物の代わりにトムを犯していいよ。もちろん、今回の決闘をリタイアしてくれると言う条件付きでね」

「……へ? ちょ、ちょっとニック!? 何勝手なこと言ってるの!? そりゃ、ボクと魔物だったらボクの方が可愛いに決まってるけど!!」


 後ろを振り返ると、シンの肩を借りながら、産まれたてで失禁した子鹿のように立ち上がったトムが、驚愕に表情を歪めていた。


「うん、俺もトムの方が可愛いと思う。だからお願いね」

「えへへ、そっか。だったらいっか……とはならない! ボクの意思はどうなるの!?」

「え? でも、カイセドに犯されているんだから、別にオビートに犯されたっていいじゃないか」

「なっ!?!?」


 トムは唖然とした様子で私を見る。何かおかしなことを言ってしまっただろうか。


 論理的に間違ったことはいっていないはずだ。たかだか昇格するためにカイセドに抱かれるのと、生き残るためにオビートに抱かれる。わざわざ比較するまでもないと思うのだが。


 しかし、トムの瞳に涙がたまり、プルプルと小刻みに震え始めた。どうやらショックを受けているようだ。

 正論でも、その正論を受け入れたくないという感情を人間は平気で抱く。こういう状況で冷静な判断ができなくなってしまっているのもあるかもしれない。


「もう!! ニック、ボクのことそんな軽い男だと思ってたの!? 酷い!!」

「え、いや、そんなつもりはなかったんだけど……あ、よかったらテント張ろうか?」

「そう言う問題じゃないの!!」

「えぇ……」

「えぇ!? なんでちょっと引いてるの!?」

「……だって、無茶苦茶なこと言うから」

「無茶苦茶ぁ!?!?」


 激動するトム。どうやら完全に正気を失ってしまっているようだ。


 トムがダメならば他の候補を立てるしかない。グリーフは、買う方はともかく売る方はやりたくないみたいだから、私が挙げられる候補者は、たった一人に絞られる。


 私はオビートに向き直り、トムから指導を受けた可愛らしい顔、というやつを作りながらこう言った。


「それじゃあ俺でどうかな? トムみたいに可愛いとは言われたことがないけど、顔がいいらしいからそれなりに楽しめるんじゃないかと思うよ」


 静まり返る舞踏場。どうやら可愛くはなかったようだ。それ以外に教えられた表情を数秒おきに繰り出したが、空気が重くなるだけだ。これはまずいな。


「……ねぇ、ちょっと待って?」 


 肩を叩かれる。マインだ。ピカピカと虹色に光る双剣に照らされた顔がなんとも怖かった。

 

「どうしたの、マイン?」

「どうしたって……あんた、自分が何言ってるかわかってる?」

「? うん、わかってるけど」

「じゃあなんでそんな平気な顔してるわけ!? アイドルはね、皆に夢を見せるのが仕事なの。枕営業してるやつに誰が夢見んのよ。もしアンタが枕営業すんなら、マインその瞬間あんたの敵になるからね!」

「ええ、それは困るな……マインに対して枕営業するのもダメなのかな?」

「へ?……ま、まぁそれは、逆にありなんじゃない?」

「あ、そうなんだ。それじゃあ、俺がマインに身体を売るから、マインがオビートに身体を売って見るというのはどうだろう?」


 見た目のいいオスよりも、見た目のいいメスの方が犯しがいがあるはずなので、オビートにとっても悪い話じゃないはずだ。

 そして、私に枕営業をしてほしくなくて、かつ私を好意的に見ているマインにとっても明らかにメリットがある。


 すると、ナイフの点滅が消えて、マインの表情に暗い影が差す。


「……もうダメ、耐えられない。推し辞める」

「え?」


 聞き間違いかと思ったが、マインから濃厚な殺意の魔力が立ち上ったのを感じる。


「そうやって私に身体を売らせて、最終的には風俗堕ちまで持ってくつもりなんだ!? 今は我慢の時、お金が貯まったら結婚しようとか言って! そしたら金庫と一緒に夜逃げしやがってあのクソ野郎!! 金返せよ畜生が!!」


 マインは白髪を振り乱して絶叫すると、自分の手首を掻きむしり始めた。血がボタボタと垂れて非常に痛そうだ。やめたほうがいいと思う。


「これだから身近な推しはダメなのよ! やっぱりレオ様に出戻りする! ニック、あんたは殺す!!」



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