第三十五話 緊迫の話し合い③
皆の視線が、ブライトの言葉につられて私たちに集まる。私はせめて自分が責任者でない
「待て待て、弱いものいじめとは、ユルー派らしくないんじゃないか?」
「弱いものいじめになるんだったらな」
「……なるだろ。俺たちゃ五軍の最下位。最下層中の最下層なんだぞ。俺たちが弱いことなんか、」
ブライトはm肩をすくめると、「そうやって、オレたちは愚か、
「お前、この隊に入る前、冒険者だったんだろ? 一つのパーティの指揮官で、結構ぶいぶい言わせてたらしいじゃねぇか」
「……チッ」
動揺が顔に出てしまったグリーフが、舌打ちを漏らす。
確かに聞いてはいなかったが、別段意外ではない。学校出身者以外の入団者は、基本経験者だ。しかし、勇ましい大群の面々が知らなかったということは……他の街のダンジョンに潜っていたか、地上専門の冒険者か、どちらかだろう。
そして、より稼ぐためにこの街にやってきた……よくある話だ。
「少なくとも、ここにいるカイセド派の中じゃお前が一番マシだ。ま、お前らトム隊かサイックス隊ってところだな。他はカスだ」
「それなら、二人だけで戦えばいいじゃない」
言い争いになる前に私がすかさず口を挟むと、二人がポカンと口を開けて私を見た。しかし、私は構わず続けた。
「時短になるし死傷者も減らせるから、一石二鳥かと思ってね」
グリーフとブライトの一対一なら、グリーフが勝つ可能性は高い。が、トム隊とブライト隊なら話は別だ。足手纏い二人を守りながら戦えば、たとえグリーフが元一流の冒険者だったとして、勝つのは難しいだろう。
しかし、それをわかってブライトが提案してきているのなら、全くもってブライトらしくない。プライドの高い彼なら、不利とわかっても一対一の勝負を挑みそうなものなのだが。
……そこをつけば、私たちの都合のいい方に話を持っていけるかもしれない。
「死傷者を減らしてぇのはそっちの理屈。多少譲歩してやっただけ感謝しなくちゃなんねぇだろうが」
「いや、ブライトにとっても都合がいいはずだ。だってブライトは、グリーフと戦いたいんでしょ? それなら邪魔者がいない一対一の方がいいんじゃない? それなのに、わざわざそれを避けるなんて……自信がないの?」
グリーフを真似たわかりやすい挑発だが、ブライトなら引っかかるはず。そう踏んだのだが、ブライトの魔力は異様な落ち着きを保ったままだった。なんだろう、どうも違和感がある。
「はっ、オマエ馬鹿か? グリーフに自信がねぇなら、わざわざグリーフを指名するわけねぇだろ」
「だったら一対一でもいいじゃないか。そっちの方が、ブライトの実力を示せると思うけど」
「……勘違いすんなよ。オレが一番殺してぇのはテメェとトム、次点にオレに決闘を挑みやがったブライトだ。そいつらをまとめて殺す機会をわざわざ逃す意味がどこにあんだよ」
「……グリーフに勝ったら、俺もトムも殺せるじゃないか。それともユルー派は、集団戦になったら勝てないと思ってるのか?」
「……チッ。ごちゃごちゃうっせえな。なんだテメェ、びびってんのか?」
「いや、びびってるっていうか、そっちの方が合理的だって話なんだけど」
……なんだろう、なんでこんなに粘るんだ。自尊心の強いブライトが、ここまでグリーフとの一対一を避けるというのは相当な恥なはずだ。事実、彼の後ろのユルー派の面々は不審そうな顔をしている。
だいたい、私とトムの方が殺したいというのは完全に嘘だ。昨日あれほどグリーフに敵意を向けていたじゃないか。
……だからこそ、確実にグリーフを殺したいのか? いやでも、ちょっと挑発されたくらいで、そんなに殺したくなるものなのか?
「……いいよ!!」
すると、私の思考をトムの叫びが遮った。
「なんでこんなことになってるのかいまいち分からないけど、つまりボクたちが君らに勝てば、ボクたちの言うこと聞いてくれるってことだね!?」
「……ああ、そうなるな」
「あっそ! それじゃあ、ボクたちが勝ったら、ボクたちが昇格するのを認めてくれるよね? で、このクソ裏切り者のサイックスをぶち殺してくれる!?」
「お、おい!? 何を言いだしている!?」
顔を青ざめるサイックスを睨みつけてから、トムはマナンの拘束を振りほどき、ブライトの方に向き直った。
「どうなの、ブライト!!」
「……ああ、構わねぇよ」
「嘘だろ!?!?」
ユルー派としても、このミスマッチに違和感を持つよりも、私たちがブライトにボコボコにされるところが見たいという気持ちが勝ったのか、すっかり熱気を帯びはじめてしまった。
カイセド派の面々はというと、当然私たちが代表者にされるのは嫌なようだが、それじゃあ私たちの代わりにブライト隊と戦う気があるものがいるかというと、マナンくらいのものか。そのマナンも、恐怖に震え抱きついてきたサイックスを殴るのに忙しそうだ。
……これは、とんでもないことになってきたな。
グリーフにどうするんだと視線を送ると、彼はやれやれと肩を竦めた。彼の魔力は、この状況でもやけに落ち着いていた。




