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第三十三話 緊迫の話し合い①

 

 私たちを待ち受けていたユルー派潜行班は、やけに落ち着いていた。今から決闘をする、という状況下でありながらここまで平静を保てるのは、ユルー派が普段からこういったことを行っている査証になるだろう。


 ともかく、グリーフの提案が聞いているのか、問答無用で襲いかかってくることもなさそうだ。


「ちょっ、ちょっとユルー派! なんの用!? 君たちだって昇格目指して頑張らなくちゃいけないんだから、こんなところで止まってる場合じゃないでしょ!?」


 トムの言葉を完全に無視して、一団からブライトが一歩前に出た。


「よぉ、グリーフ、吐いた言葉は飲み込まないよな? オレたちと決闘しやがれ」

「……は? 決闘? え、え、なんの話、グリーフ?」


 トムだけではなく、カイセド派からの視線を一身に受けたグリーフは、ボリボリと


「あーっと、いや、あれだよあれ……まずいな、言い訳がまったく思い浮かばない。サイックス、あとは頼んだぞ」

「あ、ああ、任された」


 サイックスは緊張気味に咳払いをしてから、一歩前に出た。


「けっ、決闘の前に、僕の話を聞いてもらえないか?」

「…………チッ、とっとと済ませろよ」


 ブライトの言葉にホッと安堵したのもつかの間、サイックスは顔を引き締めて続ける。


「もう既にユルー派にも情報は漏れていることだろうが、此度の昇格で、僕たちは五番隊という立ち位置になってしまった」

「はっ、そりゃ御愁傷様、と言ってもらえるとでも思ったか? カイセド派のようなケツの穴の締まりのよさだけで冒険者を評価する派閥に所属してんだから自業自得だろうがよぉ」

「ああ、後悔しているよ」


 サイックスの即答に、ブライトは目を丸くした。なかなかいい出だしじゃないだろうか。サイックスもそう感じているのか、魔力の漏出が多少落ち着いたように見える。


「君たちユルー派の姿勢の方が明らかに正しい。純粋な冒険者として、戦闘能力が優秀なものが昇格すべきだ……どうだ、君から見て、僕たちサイックス隊は昇格に値しないか?」

「…………」

 

 ブライトは黙り込む。なかなか正直な男だ。サイックスはともかく、マナンとカナンの戦闘力は五軍の中でも高い。ブライト隊と戦っても、勝てはしないにしてもそれなりに見れる戦いになるだろう。


「それなら、僕たちは争う必要はない。なぜなら、カイセド派もユルー派も、トム隊のような五軍最下位の隊を昇格させることを望んでいないからだ」

「……は? 何言ってるのサイックス?」


 サイックスはトムの問いかけを無視して続ける。


「サイックス隊とトム隊の『命の記録帳(モダン・エイジ)』をすり替えた。これで、トム隊の昇格はほぼなくなった」

「……はぁ!? テメェふざけんっ……」


 トムがサイックスに摑みかかろうとした時、瞬時に後ろに回り込んだマナンがトムの後ろに回り込み刃先をトムの細い首に突きつける。


 私はリアリティを高めるため、すかさず抜刀し、マナンに剣先を向けた。リアリティを出すために、事前に仕込んでいた流れだ。


 サイックスは、「次僕たちの話し合いを邪魔したなら、首を切ってしまえ」とマナンに言ってから、ブライトに向き直る。


「ユルー派の理念から、今回の昇格隊は、僕たちサイックス隊と、ユルー派からカイセド隊とマリン隊と、ニーナ派からクルゼフスキ隊、ヌネス派……このように昇格するなら、君達だって文句もないんじゃないか?」

「……ふん、だろうな」


 ブライトが頷くが、名前を呼ばれなかったユルー派から不満の声は上がらない、どころか納得すらしているようだった。正論を振りかざして、その実自分の私利私慾を通したいだけという人間はたくさんいるが、彼らは自分が損をしてでも戦闘力重視を突き通したいようだ。立派なことだと思う。


「それなら、決闘なんてして、時間も命も無駄にすry必要はない! 僕たちで協力しあおう!」

「ふざけんな! そんなの認めない!!」


 トムの絶叫に、グリーフが顔を顰める。サイックスは、「マナン! トムを黙らせろ!」と鋭く命令してから、サイックスは続けた。


「今回で僕たちが全滅しようが、四軍カイセド派が過半数を保持することは変わらない。しかし、今回カイセド派とユルー派が争い、共倒れになった結果、ヌネス派とニーナ派が昇格枠を独占すれば、三竦みであった野派のパワーバランスが、ユルー派が不利になるように傾くことになる。ユルー先輩が一番望まない形じゃないか?」


 『ユルー先輩』という言葉を聞いた途端、明らかな動揺がユルー派の団員たちに走った。ユルー先輩は絶対的な暴力によって派閥を支配しているので、カイセド先輩よりも支配力という点では上なのだ。

 

 その名前はブライトにも効いたようで、ゴブリンの肝でも噛み潰したかのように顔を歪めた。


「……なにが狙いだ」

「言った通りだ。トム隊を昇格させない代わりに、僕たちが昇格したいんだよ」

「ふざけんな。お前が媚びへつらってるカイセドご本人が、トム隊を昇格させようとしてんじゃねぇか。これはれっきとした派閥長への反逆だ。お前みたいな度胸なしが、たかが昇格したいだけでこんな暴挙を起こすわけがねぇ……どうせ、どっかの誰かにそそのかされたんだろうがな」


 ちらり、とグリーフに視線を送るブライト。どうやらブライトは、今回の反抗を企てたのがグリーフであることに、すぐに気が付いてしまったようだ。

 グリーフが言っていた『余計なこと』とは、私たちが昇格を譲る意思があることをブライトに打ち明けてしまったことだと、ここでやっと気づく。


 昨日、ブライトが、一見ユルー派にとって得しかない私たちの提案を受け入れなかったのは、一重に私たちに対する信用の欠如が原因だ。今回のサイックスの反乱の裏にグリーフがいると勘付かれたら、これも何かの罠だと思われて、その瞬間会話を打切り戦闘に入ってもおかしくない。

 

 しかし、ブライトはただ一瞥しただけで、再びサイックスに視線を戻す。サイックスはごくりと生唾を飲んでから、続けてこう言った。


「僕は、今回の昇格クエストで昇格できたら、四軍の指揮官に立候補するつもりだ」


 今日一番の動揺が、カイセド派にもユルー派にも走った。


「……はっ、なるほどな」


 そんな中、ブライトだけはすぐにその言葉を飲み込んで、冷ややかに笑った。


「その票集めのために、今のうちから俺たちに媚へつらおうってわけだ……頭悪いな、お前。そんなことで、ユルー派がお前たちに投票すると思ってるのか? オレたちは何があってもユルー先輩に投票するに決まってんだろ」

「それじゃあ、ユルー先輩のためにならない」

「……あ?」


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