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第三十話 昇格クエスト②。

 

「それでは、昇格クエスト管理委員会の顧問であるボケー様から、あんたらにありがたいお言葉があるわ! 人語を理解できない猿に言葉を与えるボケー様の御心に感謝なさい!」


 メスガキ先輩はそう言うと、委員会の連中が運んできた装飾豊かな籠を開ける。今までの粗暴さは何処へやら、品の良さすら感じさせる所作だった。


「ボケー様、よろしくお願いいたします」

「……ふぃぃぃい」


 中から出てきたのは、よぼよぼのおじいさんだった。エルフの特徴である長い耳も、だらんと垂れてしまっている。

 エルフでヨボヨボということは相当な年齢なわけで、私たち五軍でも殺せてしまいそうなものだが、劇場の緊張感は一気に高まった。

 なぜなら彼は、『勇ましい大群(ブレイブ・ホード)』の運営側と呼ばれる存在。立場的に言えば、一軍の先輩よりも偉い存在なのだ。


 ボケーは、委員会の冒険者が用意した台に、登っているのか降りているのかもわからないくらいゆっくりと登った。そして、ボリボリと禿げ上がった頭を掻くと、年の割に白い歯の生えそろった口を開いた。


「……えー、っと、あの、あれぇー……あれ、なんだ、あの、あれ」


 そして、メスガキ先輩を見上げる。「……は、はい? なんでしょう?」とメスガキ先輩が戸惑いに顔を歪めた。


「あのー、あれだよ、あれ、あの、魔物で、ぷよぷよした、水色の……水色じゃないのもいるな。あれ、なんだっけ?」

「……ス、スライム、でしょうか?」

「あ、それそれ」


 スライムを思い出せなかったのか……強さで図る必要はなくとも、機能的ではないものを上に立たせるのはいかがなものかと思う。彼みたいなのがトップだから、現在の勇ましい大群はおかしくなってしまっているのではないか。 


「そうスライム、で……なんじゃったかな、いや、慣用句、ゴホッ、的なのがあって、なんかそれで上手いこととか、ゴホッ、言えてたんだけどね、その慣用句使って、ゴホッゴホッ」

「……もしかして、スライムにも五分の魂、でしょうか?」

「ああ、それは違うね」


 違うんだ……。


「なんだったか……あっ、そうそう!! ワシが若い時はスライムに穴を開けてそこにちん……いや、あれはゴブリンだったか……うん、まぁ、そのぉ……ま、今日は楽しみにしてます。頑張って」


 それだけ言うと、今度は登っているか降りているかわからないくらいの速度で台を降り始める。それを見送り、メスガキ先輩が無音のため息をつくと、俺たちを見渡した。


「さて、それではこれより、昇格クエストを始めるわ! 今からあんたらの『命の記録帳(モダン・エイジ)』を配るから、隊長は取りに来なさい!」


 メスガキ先輩の号令とともに、トム達総勢六十二名の隊長がメスガキ先輩の元に列を作り、帰って来たトムの手には、確かに私たちの名を刻んだ『命の記録帳(モダン・エイジ)』があった。ただでさえ高まった緊張感が、強化の魔法をかけられたかのように膨れ上がるのを感じた。


「それじゃあ、早速始めましょう!」


 メスガキ先輩は、自分の身体ほどの大きさの扉のノッカーを持ち上げると、コン、コン、コンと三回ノックをした。すると扉がギギギと音を立てて開く。扉の先は、あの魔女の瞳の色を思い起こさせるような暗黒だった。


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