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第二十八話 うんこよりちんこ。


「おい、サイックス、話があるんだ!」


 グリーフが力強くノックしたのは、この五軍寮の部屋の中で一回り大きなドアの前だった。『サイックス隊』の名札も、心なしか艶々と輝いているようにも見える。


 すると、扉の先から、「たっ、助けてくれぇ〜!」と、サイックスの情けない悲鳴が聞こえてきた。

 グリーフがドアノブをひねって中に入ると、ちょうどサイックスが、全裸で縛られ床に四つん這いにされていた。そのお尻には漏斗がブッ刺さっていて、マナンがそこに多量の火薬を注ぎこもうとしている。


 ダンジョンでもなかなか見られないような修羅場だった。


「……何をしているんだ?」


 グリーフが聞くと、マナンはギロリと切れ長の目で私たちを睨みつけた。


「決まってんでしょ! 僕の隊に入ったら確実に昇格できるとか抜かしてたから男の下につくの我慢してたのに、足を引っ張りまくったこの嘘つき短小包茎野郎の肛門を爆破すんのよ!」

「……え、あれで短小なのか?」


 ただでさえ話がこじれにこじれて頭が痛いというのに、追い討ちをかけるような出来事が目の前で起こったのだ。絶望顔のグリーフは放っておこう。

 

 私はため息交じりに呟く。


「マナン、サイックスのこと、俺より好きだったんだね……」

「……は? なんでそうなんの!?」

「だって、マナンは好きな相手に酷いことをしちゃうんだよね。俺、マナンに肛門を爆破されそうになったことないし……」


 この三年間でグリーフやトムのように、私に好意を向けるような人間も現れたが、順位で言えば、トムはグリーフ、グリーフはトムが一位だろう。唯一マナンだけが、私を一位にしてくれる可能性があるように感じていたのに……非常に残念だ。


「マ、マナン、そうだったのか……?」

「はぁ!? そんなわけないでしょ!! ねぇカナン、違うわよね!?」

「……すごい、お尻の穴って、こんなに広がるものなんだ。女子会で『お尻の穴なんてちょっとしたダンジョンよ』ってよく言ってたけど、本当だったんだ」

「もう! なんでこんな時に限ってちゃんと訳してくれないのよ!! ていうかあんた友達は選びなさいよ! お姉ちゃん心配なんだけど!?」


 マナンが怒り任せに漏斗を抜くと、サイックスが「あふんっ」と情けない悲鳴をあげる。漏斗には、火薬の黒というよりは、茶色のものがべっとりと付いていた。


「きゃぁっ!? これうんちびっちり付いてるじゃない!!」

「ぐぎゃあ!?!?!?」


 うんこがべっとりついていることに気がついたマナンが、ケツの穴に漏斗を押し戻した。すると勢い余ったのか、マナンの女性にしては太い腕が肘のあたりまでお尻の中に入ってしまい、サイックスが白目を剥き泡を吹いたので、私は気分が落ちているのもあってか完全に引いてしまった。


 やっぱり今の時代、うんこよりもちんこの方が面白いのかもしれない……今ちんこと叫んだら、マナンはもう一度私のことを好きになってくれるだろうか。


「……ちんこ!」

「……へ?」


 うんこまみれになった腕を死んだ目で見ていたマナンが、私の方を振り返る。好意的には見えない。


「ちんこ!!」

「え、なになに、怖いんだけど」


 笑わせるどころか怖がらせてしまった。ああ、これだから私は駄目なのだ。


「ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!!」

「えっ、えっ、急にどうしたわけ!? ちょ、カナン、あんた訳しなさいこれ!?」

「……『ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!!』」

「まぁそうよね!? え、なんで急にちんこって連呼し始めたの!?」

「ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!!」

「『ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!! ちんこ!!!』」

「……なにこれ、なにこれぇ!?」


 マナンが頭を抱えると、手に付着したうんこが金髪につく。マナンが悲鳴をあげると、「……このクソやろう!!!」とサイックスのお尻を蹴り上げた。すると、ぶりぶりとサイックスのお尻から漏斗が出てきた。


 その光景を見ていたグリーフが、深々とため息をついてから、パンと手を打った。


「よっしゃ、お前らもう一回風呂入って目ぇ覚ませ。それから話がある……お前たちサイックス隊が昇格するため、重要な話だよ」


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