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第二十四話 愛人契約。


 ……沈黙。私以外に質問しようとするものもいないので、仕方がなくもう一度手をあげる。


「でも、それって、不正にならないんでしょうか」

「ならない。実際にメスガキ先輩に確認をとったところ、『勝手になさい』とのことだ。言っていただろう……メスガキ先輩は派閥間での争いを歓迎しているようだ」


 カイセドは「あの人の場合、ただの気まぐれだろう。いい加減、武力を持つだけの人間に権力を与えるのを辞めて欲しいものだ」とため息をつく。


「話を続けるぞ。選ばれし五つの隊は、潜行を邪魔する魔物を狩りつつも、基本は潜行を優先する。しかし、もちろん奴らも馬鹿ではないから、同じ方法など思いつくだろう。事実、他の派閥長も同じ質問に来たそうだ。一番少ないヌネス隊でも三十名を超えるわけだから、一つの『命の記録帳(モダン・エイジ)』に限度いっぱいの記名ができる訳で、私たちがこのまま無策であれば、ほぼ同じ条件で戦うことになる」


 ごほんと咳払いをするカイセド。


「そこで、確実に突破できる隊を作るために、選ばれし五つの隊の中でも、順位をつける。五隊全員に平等にポイントを割り振った結果、全隊合格基準に達さずに落ちたとなったら目も当てられないからな。一位の『命の記録帳(モダン・エイジ)』には武闘派のアタッカーが記帳し、五位はサポーターが主、というようにする」


 ごほんごほんと、咳払いを二回。


「それ以外にも、多層式のシステムを使おうと思っている。少数でどれだけ気配を消したところで、ダンジョンで魔物との戦闘は避けられない。なので、まずは五番隊が潜行の邪魔をしてくる魔物に一太刀を浴びせる。そこからの戦闘を担うのも下位隊で、上位の班はなるべく消費をしないようにする。当然荷物も下位班が持つ。そして、下位隊が消耗し潜行についていけなくなれば…離脱し、残った隊で潜行する。さすれば、上位二隊は確実に昇格できるだろうし、残りの三隊も当然昇格の可能性が非常に高い……あっ!?!? 可能性が高いぐるるうううぅぅぅ!!!」


 顔を真っ赤にして慌てるカイセド。浴場にざわめきが響く。


 どうやら、先輩の前でぐるるぅを言わないという醜態を晒したゆえ、もうぐるるぅを言わないことにしたわけではなく、普段プライベートで頻繁に来ているところにいるせいで、素の自分が出てしまっただけだったようだ。

 当然、皆はそちらの件で息を飲んでいるのではない。私だってそうだ。


「おいおい、冗談だろ……」


 グリーフがそう呟いたので、私は頷いた。


 確かにこれでは、私たち……というよりトムを特別扱いしすぎだ。


 トムの方を見ると、トムはなぜか上半身を手ぬぐいで隠しながら、「ねっ、言ったでしょ?」と笑った。

 間違いない。カイセドは、私たちトム隊を一番隊に指名するつもりだ。他のカイセド派二五隊に犠牲を払わせて、私たちを昇格させるつもりなのだ。


 ただ結果を待つだけの投票とは、全くもって話が違う。ただでさえ私たちに向いている敵意の感情が強まるのは明白だった。


「……よし」


 脱退の件を伝えるのなら、この瞬間しかないだろう。

 私は、トムの肩を掴んで、こちらに向かせる。トムがパチクリと瞬きをした。


「トム、お願いがあるんだ」

「……へっ、あっ、えっ、今!?」


 せっかく視線を合わせたのに、なぜか私の下半身に視線を送るトム。困るので、細い顎を摑んで顔を持ち上げる。


「うん、今じゃないとダメなんだ」

「あっ、ひゃっ、ひゃいっ」

「ぐるるぅ…そこで、早速だが、四軍の面々と話し合って決めた五隊を発表する。呼ばれた隊の隊長は返事をしろ……五番、サイックス隊」

「えぇ!?」


 現五軍指揮官隊で、一番に選ばれて当然のはずのサイックス隊が呼ばれ、サイックスは素っ頓狂な声をあげ立ち上がる。勢い余ってタオルが落ちて男性器が露わになり、女性陣から悲鳴が上がった。


「ぐるるぅ…なんだ、文句でもあるのか?」

「いっ、いえっ、そんなことはありません!!!」

「だったら、その粗末なものをとっととしまえぐるるぅ!!!!」

「はっ、はい!!」


 ……だから、何をためらっているんだ。


 私たちが意図的に足を引っ張ることだってできる訳で、投票と比べると絶望的な展開ではないが、そうさせないよう他のカイセド派も必死だろう。もし一番隊が昇格できないなんてことになれば、カイセドからどんな罰があるかわかったものではないからだ。


 第一、私はトム隊を脱退することを望んでいる。これはある意味好機であり、むしろ私たちが昇格候補から外れたと思いこみ喜んでいたのがおかしいのだ。たとえ五軍に残っても、トム隊に居る限り問題は解決しないのだから。


「…ぐるるぅ、それでは、発表を続ける…四番隊…ぐるるぅ…ポコ隊!」

「……ククク、ついに我々四天王の出番が来たか」

「ぐるるぅ、三人隊なのに四天王か……頼もしいということにしておこう。三番隊、コスプレイ!」

「……ぁ、はぁい……」

「……風呂に入るときくらい着ぐるみを脱げないのか? まあ、獣人に憧れていること自体は素晴らしいが、普通にマナー違反だし…ぐるるぅ…二番隊、ポルン隊」

「……クク、私たち十六神将の出番というわけですねぇ」

「早急にポコ隊と話し合ってキャラ被りを解消しろ…ぐるるぅ…それでは、一番隊を発表する!」


 これにて、順位的に昇格が確実視されていた隊は出揃った……。


 私以外の団員も同じ考えのようで、私たちに視線が集まる。やはり好意的なものは一つもなくて、トムの手段はこの群れの中で受け入れられないものだとはっきりわからせてくれる。


 このままではこの群れから排除されかねない。覚悟を決めないわけにはいかなかった。


「俺とグリーフは、トム隊を抜けることにするよ」

「……は? 何て?」

「……トム班!!!」

「だから、俺とグリーフで、トム隊からの脱退を申請するって言ったんだよ」

「……はぁ!?!?!?!?」


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