第二十二話 ダンジョン潜行クエスト。
「今回のクエストを、私たちはダンジョン潜行クエストと名付けたわ! あんたたちダンジョン系冒険者にぴったりな内容よ! 五軍総勢二百二名で、ダンジョンに潜ってもらうわ! で、より魔物を倒し、より深くの階層に潜った五隊が昇格ってわけ! あ、時間は明日早朝から三日間ね!」
あまりに急な時間設定に、つい驚きの声をあげてしまう隊員もいたが、メスガキ先輩は上機嫌に続ける。
「と言っても、こっからは低学歴のあんたらには難しいかもしれないけどね! 魔物に関しては、給料とか決めるときと同じ評価基準よ! スライムなら一ポイントってやつね!で、潜った階層もポイント化されるわ! 一層を潜り切ったら百ポイント、二層を潜り切ったら二百ポイント! 試験終了時にいる階層の階数掛ける百が加算されるわ! 階段を降りたところに私たち昇格クエスト委員会が待機してるから、そこで隊の名前を告げることを忘れないでよね!」
……どうやら派閥がなくなるわけではなさそうだ。なんで投票ではなくそんな大掛かりな試験をしたがるのかも、全く理解できない。
しかし、これはこれで朗報じゃなかろうか。
私たちトム隊の五軍の中での実力は、甘めに見ても下の下といったところだ。掛け算云々は理解できなかったが、実力重視で評価されるクエストで、私たちが上位五隊に入れるわけがない。
つまり、今回のトム隊は昇格を避けれるわけで、トムにわざわざ別れを告げる必要はなくなったのだ。ホッとした……ホッとした? なぜだろう。今後五軍に所属することを考えたら、トムとは一刻も早く別れるべきだろう。むしろ、その機会を失ってしまったのだから悲しむべきだ。
今回トム隊の昇格を見送られるようなことがあれば、少なくとも次の昇格の機会まで、グリーフはトムと一緒にいたいと考えるだろう。グリーフは昇格が嫌なのであって、トムのことは嫌いじゃない、どころか、好き、という感情を抱いているはずだからだ。
もしかしたらその期間に、心変わりをしてしまうかもしれない。人間というのは、寿命が短いせいか、たかだか数日で劇的な変化をしてしまうこともある動物なのだ。
「さらにさらに、低学歴のあんたらのことだから、どんな魔物を何体倒したかなんて覚えられるわけがないじゃない? そこで今回は特別に、あんたたちに自分の隊の『命の記録帳』を預けることになったわ! もちろん、いちいちポイントを集計するのが面倒とかそんなんじゃないから!」
「……ねぇ、これってさ、俺たちの昇格、無くなったってことじゃない?」
つい喜びが滲み出たので怒られるかと思ったが、トムは、私の予想に反し、どこか余裕すら感じさせる態度でこう言った。
「ふふ、心配しないで、ニック。どんなクエストになったところで、ボクたちの昇格は硬いから」
「……え?」
客観的に見て、私たちの昇格は難しいはずだが。グリーフに目配せを送るが、随分と真剣な顔をしているので、私の疑問に答えてくれそうもない。
「それと、書いてある通り、途中リタイアは何があっても受け付けないわぁ! 唯一参加資格を失うとしたら、全滅したときね! ふふ、楽しみだわぁ! あんたら底辺どもが必死に足掻く姿を見られるなんてね!」
「……やばいことになったな」
グリーフが呟く。一体全体何がやばいのだろうか? ダンジョンに居た時、本を読む時以外頭を使わなかったことを、今になって後悔する。
「そして、何より重要なのは、今回の昇格クエストの合格者の中から、アタシ独自にMVPを選出する予定なんだけど、なんとなんと、その子を特別に私直属の後輩にしてあげる! ちょうど今回ので死んじゃったのよ! ま、よかったわ。たかだか四軍が潜る層で死ぬようじゃ、アタシの後輩としてはフテキセツってことだから! あ、この後アタシたちが飯を食うから、五軍はとっとと出て行きなさい! 行けぇぇぇぇ!!!!」
『はい!!』
やはり慣れ切ったものである。私たちは痺れる足に鞭を打ち、食堂から飛び出たのだった。




