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第二十話 対立する仲間。


 トムの手がピタリと止まる。くりくりとした瞳を細めて、グリーフを睨んだ。


「え、何々、どういうこと?」


 グリーフは視線をいなすように煤けた床を見て肩を竦めた。


「単純に危険だろ? 四軍に上がった分、強い魔物と戦うことになるんだぞ? 今度は俺たちの死が、上機嫌な歌になるかもしれないぜ?」

「そんなの重々承知! なんなら強い魔物をぶっ倒して、ボクたちの実力を示すんだよ!」

「俺たちにそんな実力があるなら、ハナから真っ当に昇格できてるだろ……わかってると思うが、五軍の連中から相当嫌われてるぜ」

「別にいいじゃん! 昇格したら、全員ボクたちの後輩になるんだし。むしろ今から楽しみだよ! ボクたちを見下してた連中がどんな風に手のひら返すのか! 四軍に入ってもっといい化粧品とか買って垢抜けたボクを見て、五軍のころ優しくしなかったことを後悔するんだ!」

「そんな少女演劇みたいな手のひら返しがお望みなのか?……それじゃあ五軍の連中はいいとして、四軍の連中はどうすんだよ? なんなら今は、四軍連中の方からヘイトを買ってるみたいだぜ」 

「……大丈夫だよ。カイセドが、ボクたちを守ってくれる」

「そのカイセドも安泰じゃないだろ。今回の大量死に加え、成績や単純な戦闘力じゃなくって自分の気に入りを昇格させる気満々ってことで、カイセド批判の熱は高まっている。次の指揮官選挙、負ける可能性だってあるんだぞ」

「……もう、なんでグリーフっていつもボクの努力にケチをつけるの! もういい知らない!」


 トムはそう吐き捨てると、怒り任せにボロボロのドアを開け放ち出て行ってしまった。


 私は二人の喧嘩でよくあるパターンである、トムが踵を返して戻ってきて、「もう、こういう時は追いかけてきてよ!」を警戒してしばらく待ったが、どうやらトムは戻ってこないようだ。


 こうなると、話し合いは難しい。となると、グリーフも私の提案を飲んでくれるに違いない。


「もう脱退するしかないよ、グリーフ」


 グリーフはびくりと肩を揺らして驚くと、「おい、起きてたなら加勢してくれよ」とジト目で私を見上げる。


「……まぁ、でも、そうだな」


 基本的に、隊の権力は隊長に集中する。隊の解散権がその一つだが、救済処置として、隊員の過半数が脱退申請を行えば、隊長の許可無しで脱退することができる。つまり、私とグリーフの二人が同時に脱退を宣言すれば、私たちはトム隊から抜けられるわけだ。

 その場合、トム隊はトム一人となるわけだが、トム隊というよりはトムを昇格させたいカイセドとしては、なんら問題はないだろう。

 トムは昇格。私たちは五軍に残る。お互いが得をする。これこそが群れのあるべき姿だ。


「ま、心配する事もねぇか。なんだかんだ、ドロドロのパーティ内政治を生き抜いて来たカイセドだ。三軍の連中とのつながりも強いらしいし、なんだかんだトムを守り通すだろう」

「だね。それじゃあ、トムに言いに行こうか。朝ごはんの下ごしらえもしなくちゃだしね」

「……ああ」


 私は三段ベッドから飛び降りて、寝間着を脱いで隊服に着替え始めた。しかし、グリーフはなぜだか動き出そうとしない。


「グリーフ、どうしたの?」

「……なぁ、悪いが、お前の方から言ってもらえるか?」

「え? ああ、うん。もちろん良いけど」


 私がそう言うと、グリーフはホッと胸をなでおろす。喜んでもらって嬉しいはずなのだが、なぜだが私の胸は重くなったのだった。


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